今回の特集上映、『再発見! フドイナザーロフ』の中でも、個人的には最も痛快に感じた作品。
物語は撮影開始してまもなく実際に紛争が勃発してしまった、タジキスタンの首都・ドゥシャンベを舞台にして繰り広げられる。
どうにも頼りなく、生き方もフラフラと地に足のつかない(まさにロープウェイのような)ダレルと、当地の古い因習(女は男に従うもの…等)に真っ向から抗い、先進的で自立的な生き方だけど少々気性の荒さも顕れてしまうミラの、不器用な恋。
そう、これ、「愛・未満」の、「恋」を描いているというのが核心的。
「愛」までいくと、倦怠や、また打算的に付き合う… という場面が出てくるもの。
でも「恋」はある意味、もっと無垢で崇高。お互いをまだあまり知らないからこそのイノセンスもあろう。
「愛」にいたると、人間の嫌な部分も見えるもの。
そしてそれは、この作品のそこここに見え隠れする、紛争というものも同じだろう。
フドイナザーロフ監督曰く、「金と権力をめぐる、政治的ゲーム」。
どちら側の思想だとしても、原理主義に偏ってしまえば他者を徹底的に排除しようとする。
人間のとてつもなく嫌な側面だ。
市井の民たちは、どんなに困難な状況でもその場所で笑い、怒り、ともに労働し、時には博打に勤しみ、恋もする。
どんな状況でも人生を謳歌することを厭わない。
この純粋さこそが、人間のあるべき姿なのではないだろうか。
そんなフドイナザーロフ監督からのメッセージを、ラストの噴水周辺をまわり続けるミラの車にダレルが追いすがる場面で感じざるを得ない。