木蘭

ルナ・パパ 4Kレストア版の木蘭のレビュー・感想・評価

ルナ・パパ 4Kレストア版(1999年製作の映画)
4.8
 乗り物映画監督フドイナザーロフの面目躍如の、物も人も物語も、片時も留まる事無く動き続けるパワフルで美しい幻想譚。

 昔、DVDを買って観ていたのだが、今回のフドイナザーロフ回顧上映に際して劇場で鑑賞したが、これは凄い!
 車にバイク、自転車に鉄道、黄色いMT-LB(ソ連製の装甲牽引車)、そして馬が所狭しと走り回り、度々低空飛行するアントノフ12(CGじゃないんだよ、凄い凄い!)に、川や湖を行くボートに艀。
 陸海空と乗り物が跋扈し・・・そして勿論、人間も走り回る。
 これは劇場のスクリーンで観なきゃダメ!

 ヒロインと彼女の父親、戦争で精神に生涯を負った兄とが・・・ソ連崩壊後のタジキスタン、キルギスタン、ウズベキスタンの国境地帯で、湖と砂漠とが接する架空の町ファル・ホール(3.5kmに渡るセット!)を主たる舞台に、中央アジア(カフカスも?)を台風のように暴れ回る。
 物や人ばかりでは無く、物語も落ち着きを見せずに転げ回り、呆然としている内に終劇する・・・が、唐突に不条理な展開が生じる一方で、張られた伏線はちゃんと回収されるし、物語としてはまとまっているのが不思議。

 ヒロインを演じる、未だあどけないチュルパン・ハマートヴァが、とにかくキュート。
 フドイナザーロフの世界感にぴったりで、ドタバタ喜劇の中で切れ切れの動きを見せてくれる。やっぱり彼女は舞台の人なんだなぁ。

 近代の理性と暴力、土着の慣習と呪術とが混じり合う世界感の中で、現実と幻との間で揺れ動く物語を描いているけど、監督はあくまでも近代(ソ連)人だったのが分かる。
 何が素晴らしいか言葉では語れない、観て聴いて体感すべき、これぞ映画という作品。
木蘭

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