寝木裕和

ルナ・パパ 4Kレストア版の寝木裕和のレビュー・感想・評価

ルナ・パパ 4Kレストア版(1999年製作の映画)
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フドイナザーロフ監督作品の中でも、一際ドタバタなファンタジー。

主人公マムカラットを演じるチュルパン・ハマートヴァの天真爛漫な演技によって作品全体に躍動感が溢れている。

純白のドレスを父親に買ってもらっては車の上で踊りだし、お気に入りの歌がラジオから聞こえてきてはまだ見ぬお腹の中の我が子をさすりながら踊りだす。

しかしその躍動感に満ちた、ドタバタ・コメディ的な展開によって進んでいく物語の中に、閉ざされた砂漠の中のコミュニティで生きていく辛さや不条理さも垣間見える。

父親が分からないまま出産しようとするマムカラットに対する村の人々の残酷な仕打ち。
こういうことはどこの国でも、どんな時代でも徹底的に非難されるのは女性だということ。

そんな旧時代的な因習の蔓延る村から、とんでもなく非現実的な方法で脱出するマムカラット。これを子供じみたファンタジーと取るか、それとも内戦下のタジキスタンで映画を撮り続けてきた監督からの、未来への希望が託されているととるのか。
兄ナスレディンがマムカラットを見送る時の優しい目線に、私は後者であると考える。

マムカラットが妊娠したことを暴れん坊の父親にカミングアウトする時、両手を縛ってから告げるのが可笑しかった。
寝木裕和

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