半兵衛

恋の大冒険の半兵衛のレビュー・感想・評価

恋の大冒険(1970年製作の映画)
3.0
ミュージカルとしては日本人特有の人前で踊る気恥ずかしさがどこか抜けきれていないし、そもそもドキュメンタリー畑の羽仁監督に虚構の極みであるミュージカルを担当させること自体暴挙で(それに評論は鋭いけれど頭でっかちな映画評論家に脚本を担当させるということも加わり)どこかヘンテコで珍味な完成度の作品になってしまってはいるがそれでも製作された1970年の日本のサブカルチャーや風俗が画面に随所に登場するので製作者の意図とは違う面白さのある作品に仕上がっている。

当時の人気者が画面に多数顔を出すのもサブカルな楽しさを醸し出しており、主役の今陽子をはじめ皆川おさむや佐良直美、土居まさる、前田武彦、熊倉一雄、山田康雄、加藤みどりとあの時代に活躍したタレントがこれでもかと出てくる。…ただそうした人たちをメインにした結果演技パートが残念なことになっているのも事実。

そんな中左卜全の飄々とした演技がいい味を出していた、そして多々良純のミュージカル演技が見られるのがレア。

でもこの映画最大の見所は監督でも役者でもなく、美術やイラストを担当した和田誠の卓越したセンスである。様々な名画にオマージュを捧げたミュージカルシーンにバックで出てくるシンプルななかに原典の特徴をよく捉えた絵の数々や、悪役である前田武彦が切り取る由紀さおりの写真の張り付け方、劇中に出てくるアニメーション…。どれもこの作品のユーモアさや愛らしさに大きく貢献しており、こうした才能が後年の映画監督としての活躍に繋がったのだろうと感じた。

ただミュージカルである以上、歌と映像をシンクロさせてちょうどいいタイミングで次のシーンへ移ってくれよと思ってしまう。なんか途中で歌を放棄したような場面が幾つかあって気になってしょうがなかった。

あと後半由紀さおりが真のヒロインとして画面に君臨するのに驚かされるが、よくよく考えたら美人だしスターのオーラがあるからしょうがないよね。後年の『家族ゲーム』でもヒロイン枠だったし。
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