アオヤギケンジ

愛にイナズマのアオヤギケンジのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
3.8
花子(松岡茉優)が映画を撮る映画。長文になってしまいました。
最も気になったのは、花子の撮る映画があまり面白そうではないということだ。あらすじも撮り方もまったく面白そうではない。花子も、花子にいちいち文句を付けてくる助監督も、映画が好きらしいのだけれど、その好きさがまったく伝わって来ない。もっと言うと花子も助監督もどういう映画が撮りたいのかよくわからない。せめて参考にしてる映画の具体名が出てくればと思うが、何らかの判断で具体名は出さないことにしているらしい。だからずっとふわっとしている。情熱だけはあるようなのだが、ふわっとしているからその情熱がどこに向いているかわからない。花子も助監督も碌に映画も観ずに、ただ撮りたい撮りたいと叫んでいるだけではないかとすら思う。
後半になって事態は一変する。花子が撮りたいと切に願っていた花子の家族の物語に、花子の本当の家族が登場する。花子の撮りたい映画がよりわからなくなる。ドキュメンタリーにしたのかな? と思うがどうやらそうではないらしい。花子は台本こそないものの、家族に演技を要求する。花子が観たいもの、それは真実の物語だ。だがそれが真実かどうかをどうやって判断しているのかわからない。家族に向かって私たち家族の真実を話せと花子は言うが、花子の言う真実とは「自分が納得する話」だ。納得さえすればおそらく真実などどうでも良いのだ。つまり花子は映画を使って自分語りがしたいだけなのだ。ここで花子の撮る映画はつまらないだろうことがほぼ決定する。
一方で映画から離れた花子の家族の物語は面白い。この花子の撮るつまらない映画と、花子の家族の面白い物語のコントラストが非常にバランス悪く、盛り上がってきたと思ったらつまらなくなる。また盛り上がってきたと思ったらつまらなくなる。この繰り返しなのだ。
そもそも家族の話をしたかったのなら花子の映画を撮るという設定は必要なかったんじゃないかと思う。良いアクセントを加えていた正夫(窪田正孝)も別に花子のアシスタントである必要はなかったし、そもそもおそらく未来永劫、花子の映画は完成しない。完成してしまったらそれが真実になってしまうからだ。花子は真実の物語を撮りたいと言いながら、その実、ずっと真実を追いかける探究者として存在したかったし、映画を完成させるつもりなんてなかったんじゃないかと思う。
全体的に観ると非常にバランスの悪かった映画だったという印象だ。前半は映画作り映画としての軸を持っていたのに、後半になるとその軸が外され、家族映画になる。しかも家族映画になってからの方が面白い。だったら最初から家族映画にすれば良かったじゃないかと思うし、花子と正夫の関係もいまいちよくわからない。
あと全体的にダサい。キャプチャーの出し方とかが本当にセンスなくて、なぜ英語と日本語併記で出したのかもよくわからないし、フォントもダサい。松岡茉優ももっと可愛く撮れたんじゃないかというシーンが何度もあったし、家賃も払えないぐらい困窮してるはずなのに、その悲壮感はあまり感じなかったりと、思い返せば思い返すほどバランスの悪い映画だった。