Ryoma

愛にイナズマのRyomaのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
4.8
“家族“の尊さ・愛おしさ、コロナ禍を経ていっそう強まった社会の生き辛さ・不条理さ、映画製作の苦悩、自分に正直であること、様々な要素が演者さんらの秀逸な演技と優しさやユーモア溢れる石井監督の精緻な脚本から強く感じられた◎

先日拝見した『月』とは打って変わってクスッと笑えるシーンも多いポップでキャッチーな印象を受けたけれども、その中においても、真っ当に生きる人を違和感なく掬い上げ肯定してくれたり、社会に潜んでいる幾つかの矛盾を提起してくれたり…現実社会に通ずる思わずハッとするような核心を突いてくる要素が盛り込まれているのは流石だなと感じた。『船を編む』を少し思い出す、愚直で少し不器用ながらも直向きに生きる人が周りに与える勇気や希望・ユーモア、『月』でも重く突きつけられた命の価値や儚さ。『ぼくたちの家族』を想起させる“家族の再生“やかけがえのなさ。『夜空はいつでも…』を彷彿とさせる不条理で公平ではない社会での生き辛さなど、石井監督が今まで描いてきた作品に通ずる数多のメッセージを随所に感じた。社会の悲惨さや苦悩を描いた上で、人の優しさや想いやりなどの美点を温かく描いてくれる彼の作品はやはり最高。
身近な“家族“という存在にスポットが当てられた本作を経て、近い存在でも意外と知らないことも多いのかもなと思ったり、普段はあまり話し合ったりしてなくても心の底では相手に感謝の気持ちを感じていたり、表面上では素直になれなく歪み合ってしまっても本当は相手を想っていたり…様々なことを考えさせてくれた。生きるのに躓いたときや悩んだとき、相談できる家族がいるだけでその人の人生は全く違ったものになってくるのかもしれないなと思った。ありきたりだけれど、いつ死ぬかわからない世界で、大切な人と過ごせる今を大切にしたいと感じた。

余談
とても好きな作品だったので、パンフレットを十数年ぶりくらいに買いました。主演の松岡さんの撮影時の共演者との会話や心情、演者さんらの本作に込めた意気込み、オフショットなど様々な側面から作品を堪能することができて本当に良かったです。
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