てっぺい

愛にイナズマのてっぺいのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
4.0
【アフターコロナ映画】
アフターコロナの現代に、強烈なメッセージを発信。復讐劇と思いきや、軸が変わっていく構成が面白い。笑って泣けるラブコメディで、映画愛にも溢れた、映画ファンの心にイナズマを落とす一本。

◆トリビア
○ 花子を演じた松岡茉優は、石井監督自身が映画監督を目指す人のことを書いたという本作の重さから、オファーを受ける事を半日迷った。(https://thetv.jp/news/detail/1161642/amp/)
〇父と兄達の会話のみ、台本1ページ分ほどの家族の喧嘩シーンでは、花子は何をしているんだろうと思いながら撮影に臨んだという松岡茉優。現場で隅に見つけた座布団に、そこからの景色を花子は子どもの時から見ていたと感じ、ここだと思ったそう。芝居には正解がないが、その瞬間、ピースがハマったと感じたという。(https://www.cinematoday.jp/news/N0138844)
〇正夫を演じた窪田正孝は家族の喧嘩シーンについて、目の前でブチギレている松岡茉優や、佐藤浩市に向って暴言を吐く池松壮亮と、俳優としての実力者たちが目の前でコラボしている瞬間が最高だったと振り返る。(https://www.cinematoday.jp/news/N0138844)
○窪田正孝は正夫を演じた感想について次のように語る。「自分としては気持ち悪いような芝居がOKになるんですよ、正夫に関しては。それが監督の求めてるものだったんだと思うんですけど。だから、自分の中で納得がいったり、「今気持ちよかった」って思えるシーンがひとつもない。1回もなかったです。全然芝居した感じがしなかったです」(https://rockinon.com/blog/cut/207664.amp)
○ カメラを向けられることで、意識的にも無意識的にも人は何かを演じるものだと池松壮亮は考える。佐藤浩一演じる親父が、カメラをチラチラ見ながら自意識と戦っている姿が最高のお気に入り。(https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1409675/amp)
○若葉竜也のお気に入りは、池松壮亮が小さいマスクをしているシーン。試写を観たときに「周りを気にせずにここまで笑ったのは何年振りだろう」と思ったほど笑ったそう。池松壮亮曰く、アクセルからの急ハンドルで笑いに転調する、石井監督の上手さで、台本になく急遽撮影したものだという。(https://ananweb.jp/anew/510975/)
○若葉竜也は、自身が家族と居ると喋れない瞬間があり、そこに準じて雄二を演じた。自身にとって家族とは、あんなもんだという。お互いに気まずかったり、嫌いだったりする瞬間もあれば、照れがあったり、近いようで意外と他人だったりする瞬間がたくさんあるもので、リアリティを覚えたと語る。(https://lee.hpplus.jp/column/2790036/)
〇作中の赤色について、監督はその意味を反逆のカラー、愛の色、赤というものに立ち向かおうというようなテーマだと明かした。(https://www.tokyo-np.co.jp/article/283310/5)
○ 石井監督は、若き映画監督であり友人の坂西未郁の存在が本作の発想のきっかけになったと語る。その事から、花子が劇中で撮影する映像は全て坂西氏に任せたという。(https://ainiinazuma.jp/info/archives/category/news)
坂西氏の父親は、エレファント・カシマシのPVをいくつも手がけた人物。その事から、本作の主題歌もエレカシに決まった。(https://ainiinazuma.jp/info/archives/category/news)
○2020年のコロナ禍で映画界に発出された休業要請。映画が不要不急呼ばわりされ、検証も行われないまま物事が進んでいった屈辱感が本作の根底にあると監督は語る。(https://www.tokyo-np.co.jp/article/283310/4)
○ 頭ごなしのダメ出しや、企画の横取りなど、本作で描かれるブラックな映画業界。自身の体験かと問われた石井監督は、映画界に限らず、日本中、世界中であることと回答。実体験もあれば、むしろその描き方を和らげたほどだという。(https://hitocinema.mainichi.jp/article/interview-ishiiyuya)
○本作の洋題は”Masked Hearts”(マスクで覆われた心)。みんな本音や嘘をいくつも仮面の下に隠していたコロナ禍、それをひとつひとつひっぺがして、人が隠し持っている本当のものを見つめていくような、そんな映画を作りたいと思ったと監督は語る。(https://ainiinazuma.jp/index_sp.php)
○ 石井監督は撮影中モニターを見ずに俳優の芝居を見て、カットがOKかどうか、画に関しては撮影監督に委ねる事もあった。松岡茉優は、そんな石井監督の各部への敬意が、敬意として監督に返ってくる豊かな現場だったと語る。(https://eiga.com/movie/99329/interview/)
○松岡茉優自身が撮影中の21日間でその時の思いなどを書き綴った日記がパンフレットに収録される。(https://thetv.jp/news/detail/1161642/amp/)

◆概要
【脚本・監督】
「舟を編む」石井裕也
【出演】
松岡茉優、窪田正孝、佐藤浩市、池松壮亮、若葉竜也、仲野太賀、趣里、高良健吾、MEGUMI、三浦貴大、鶴見辰吾(声の出演)、北村有起哉、中野英雄、益岡徹、佐藤浩市
【主題歌】
エレファントカシマシ「ココロのままに」
【公開】2023年10月27日
【上映時間】140分

◆ストーリー
26歳の折村花子は幼少時からの夢だった映画監督デビューを目前に控え、気合いに満ちていた。そんなある日、彼女は魅力的だが空気を読めない男性・舘正夫と運命的な出会いを果たす。ようやく人生が輝き始めたかに思えた矢先、花子は卑劣なプロデューサーにだまされ、全てを失ってしまう。失意の底に突き落とされた花子を励ます正夫に、彼女は泣き寝入りせずに闘うことを宣言。花子は10年以上音信不通だった“どうしようもない家族”のもとを訪れ、父や2人の兄たちの力を借りて、大切な夢を取り戻すべく反撃を開始する。


◆以下ネタバレ


◆映画製作
花子が撮影する、ほぼボックスサイズの映像から入る冒頭。本作はこの“映画製作”がキーとなる事がここに記される。花子が“常に持ち歩いている”というそのカメラは、花子にとってそれこそ“理由がない”ほど没頭しているもの。その映画製作から花子は地獄に落とされ、映画製作を通して家族が再生され、映画製作によって正夫との関係を築いていく。映画製作は本作の一本軸となっていた。一つ好きだったシーンは、花子が車中で正夫に初めてカメラを向けたところ。家族にのみ向けていたカメラを正夫に向けた時、花子にとってそれは正夫が家族ほど近しい存在となった証。それに正夫が思わず“好きです”とこぼしたのは、抜けているようで絶妙に通じ合っている何気に微笑ましいシーンだった。全ての感情が映画製作から起因している本作は、映画好きにとって全ての要素が3割増し。映画の映画はハズレなし。花子が作る“消えた女”も“消えない男”も是非スピンオフ化してほしい笑。

◆演技
実力派の役者が集結した本作。エンドロールで唯一縦書きだった佐藤浩一は、本作では一つの縦軸だった功労者。“存在確認”を欲した微笑ましい演技や、カメラを回されてたじろぎつつ、娘の狙いに絶妙に応えられず暴言を吐かれる姿に死ぬほど笑わせてもらった笑。感情が動くたびにアベノマスクに血が滲む姿が爆笑だった窪田正孝は、当人はあまり納得してないようだが、少しズレた正義感があの間の取り方で見事に表現できていたと思う。初共演だという池松壮亮と若葉竜也の兄弟ゲンカは流石の一言。そして松岡茉優は、助監督との口論には花子の静かにたぎる映画愛がよく感じられたし、“キスしました”への吹き散らしもお見事笑。“消えない男”を決意した涙には見ているこちらも涙を誘われる。色んな感情が役者達の迫真の演技と共にドカドカ心にぶち込まれる感覚だった。

◆愛にイナズマ
コロナ禍で映画が不要不急呼ばわりされるも、それが“なかったこと”にされた屈辱感が本作の根底にあると語る石井監督。なるほどアベノマスクは肯定的に見えて一周回った揶揄だったし、食肉加工の牛の犠牲や、花子の映画監督の話が“なかったこと”にされる描写に、まさに監督の怒りが見えるよう。本作に散りばめられた“赤”は、怒りの色でもあれば、花子の復讐心にも通じていたし、一方で家族愛や正夫と花子を繋ぐ色としても表現されていたように思う。マスクが一つのモチーフで、マスクを外しても本音は出さずに自害した落合(仲野太賀が父と共演とは!)、顔を隠す事で強行に及ぶ家族と、洋題が“Masked Hearts”なのも頷ける。怒りの復讐劇と思わせて、終わってみれば花子の喪失と再生の物語という、ある意味肩透かしな構成もニクイ。“消えた女”の監督が別人になっていたり、誠一の襲撃がガラス音のみだったりと、ハショる事で想像を掻き立てる演出も素晴らしい。“意地でも諦めない”と決心する2人で終わるラストが最大のハショリ。エンドロールで流れた情景は、映画“消えない男”の序章にも思えて、その後の花子の作った映画を思い描く、何ともイナズマを心に打たれたような余韻の残る映画だった。

◆関連作品
「舟を編む」('13)
第37回日本アカデミー最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞した石井監督の代表作。辞書を作る熱意が、海を渡る舟をモチーフに綴られる清々しい作品。プライムビデオレンタル可。

◆評価(2023年10月27日現在)
Filmarks:★×4.2
Yahoo!検索:★×4.3
映画.com:★×4.5

引用元
https://eiga.com/movie/99329/
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/愛にイナズマ
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