ぶみ

愛にイナズマのぶみのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
3.5
この出会い、一億ボルト。

石井裕也監督、脚本、松岡茉優、窪田正孝主演によるドラマ。
映画監督デビューを夢見る主人公が失意のどん底に落とされるが、彼女と偶然出会った男性とともに、音信不通だった家族を頼り、反撃に転じる姿を描く。
主人公となる、常にビデオカメラを持ち歩く折村花子を松岡、食肉加工工場ではたらく舘正夫を窪田、花子の父を佐藤浩市、兄二人を池松壮亮、若葉竜也が演じているほか、MEGUMI、三浦貴大、益岡徹、北村有起哉、仲野太賀、趣里、高良健吾、中野英雄等が登場。
物語は、コロナ禍のピークが過ぎ去った現代を舞台とし、映画監督になる夢が叶いそうな花子が、ひょんなことから国民全員に配布されたマスクを着用する正夫と出会う前半と、結果、プロデューサーに騙され、全てを失った花子が10年間音信不通だった家族の元に帰る後半という、大きく二部構成となっている。
前半での優勝は、何と言っても口では立派なことを言うも、何の責任も感じていないプロデューサーを演じたMEGUMIと、業界の過去からのしきたりと、全てに理由を求めるセクハラ助監督を演じた三浦であり、今や邦画で上っ面だけの嫌な役をやらせたら最強なこのコンビに勝てるものはいないのだが、こう言った人は、どの業界にもいるんだなと思わせてくれるもの。
そんな中、さりげなく中野と仲野という親子二人が、同じ画角のシーンはなかったものの、共演を果たしていたのも見逃せないポイント。
後半は一転して、佐藤、池松、若葉演じる家族と花子、そして彼女についてきた正夫の物語が中心となり、そこに失踪した母親のエピソードが加わってくることから、家族がいかにして再生していくかというドラマに舵を切っていくのだが、前述のような母親の失踪、一見情けなさしかない父親、口だけは達者で、やたら兄妹の長をアピールする長男に、カトリック教徒でありおとなしい次男と、それぞれ個性的であるが故に、一筋縄でいくはずもない。
そこに、北村や益岡、高良といった要所要所で良い味を出す実力派キャストが、バラバラになりそうな話や家族をしっかりと繋ぎ止めている反面、店員として趣里が演じた携帯電話ショップが、いかにも空き家となってしまったコンビニ跡地の内装を、やっつけで改装した感があったのは残念なところ。
某元首相の名が冠されたマスクの当時からあった滑稽さが、ここにきて作品全体に漂うコメディ感に輪をかけており、それすらも無かったことにされている風潮があるものの、過去が消えることがないならば、未来を変えるしかないことを家族の再生物語として伝えてくるとともに、見方によっては台詞棒読みともとれる池松の演技が、最近クセになりかけている一作。

カルトじゃないよ、カトリックだよ。
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