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愛にイナズマのハルのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
4.0
今年一番の衝撃を刻まれた『月』の石井裕也監督の最新作。
一風変わった角度から映画業界の現状と家族の在り方を描きだす、不思議な雰囲気を醸し出す物語。
前半は映画業界の闇を描き、後半は疎遠になった家族達の邂逅と関係性にフォーカスしている。
チャプターを綺麗にすっぱり分けているため、主演の松岡茉優と窪田正孝は前半から出てくるが、池松壮亮や若葉竜也は中盤以降に出演。

まず、前半。
実績のない若手映画監督が業界で生き抜く厳しさをまざまざと辛辣に映し出す。
出資者とのやり取りでは実際に似たような事があるんだろうな…と辛い気持ちに。
お金を出してもらうけれど、“やりたいことができない”では本末転倒にも思えるが、それくらい資金集めは大変ということなんだよね。
監督に加え、脚本も執筆している石井裕也監督はまさに映画監督なので、あながち的外れな誇大フィクションではないはず。
女性新人監督へ向けられるパワハラの数々。
実際にあんな目にあったらすぐに精神を病んでしまいそうだ…

そして、後半の家族パートは兎にも角にも会話劇の面白さがピカ一だった。
丁々発止のやり取りとテンポ感が秀逸なので思いっきり笑ってしまう。
本気のアドリブ合戦の破壊力は半端じゃない。
『アナログ』の居酒屋シーンしかり、『Gメン』のリビングルームしかり、演者が役を離れ、笑みが溢れてしまうほどのガチのぶつかりあい。
意図的には作れない奇跡の瞬間に思えて、すごく好きなシーンとなった。

池松壮亮演じる長男、口癖は「俺は長男だから!!」
まとめ役、というよりは混乱をもたらす存在。
若葉竜也演じる次男、通称『カルト』
理由は宗教にハマっているため。
彼はいきなり叫びだす、情緒不安定感が持ち味。
妹の花子も「使えねーわ、この家族!」を連呼するし、彼氏役の正夫は「花子さんは家族の前だと本当に口が悪いですね!!」と、よくわからないコントロール役。
もうめちゃくちゃ(笑)

こうした尖ったキャラ設定を活かし、勢いで最後までゴリ押しするのかと思いきや…一転、失踪した母親の行方や家族の存在を見直す展開にもっていく演出巧者ぶり。
悲壮感からの笑い、そこから涙あり感動ありの方向へシフトしていく流れは見事だった。

『月』とはまるで違うジャンルの作品でもしっかりと結果を残した石井監督。
まだ40歳と業界では若手の部類だが、注目株の監督であり、実力も折り紙付き。
今後公開される作品も必ず追っていこうと思います。
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