シミステツ

愛にイナズマのシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

コロナ禍の鬱屈とした世相をイナズマのように一閃する物語。全体を「プロローグ」「チャプター1・酒」「チャプター2・愛」「チャプター3・カメラ」、「チャプター4・家族」「チャプター5・お金」「チャプター6・神様」「チャプター7・雷」に分ける構成。
時代に、常識に流される、簡単にあきらめる、そんなことしたくないし、もったいない。嘘でない、いたって真な生きざまを見せつける。撮られることによって浮かび上がってくる家族の本音。みんな生きながらに俳優で、何かを演じ、隠し、押し殺して生きている。

家族の不協和、ドタバタ劇は『リトル・ミス・サンシャイン』であり家族の愛と激情を写す意味では『湯を沸かすほどの熱い愛』であり。

物語の前半は二項対立が象徴的。年下の花子のことをキッパリと否定したり常識を押し付けてくる荒川。長い歴史や伝統、培ってきたやり方があり、ものごとには理由や意味があるという立場。一方でコロナを例に、突発的にあり得ないことは起こる、ご都合主義的になかったことになどできないという立場の花子。これら登場人物の対比が時代背景と相まって心地よい。夢と現実、本音と建前。

正夫の人物描写も巧みだった。正夫にクローズアップしていきながら夜へと変わっていく登場カットや殴られてマスク越しの血も面白い。会話に脈絡もなく、不器用な正夫というキャラクターがバーのシーンでよく分かる。コロナ禍で困窮している人がいる中でアベノマスクをコロナ禍で70万貯めたというエピソードもいい裏切りになっている。

プロデューサーの原に監督を下され、期待の俳優だった落合も自死。そこから後半、花子の反撃がはじまる。意を決してバラバラになっていた家族と集まり撮影をはじめる。父の余命、消えた母の存在。

「なんで赤好きなの?」
「理由はありません、ただ好きなんです」

「映画の台詞だったらつまんないんですけど、あなたの目を見たらそれが嘘じゃないんだってわかります、素敵です」

「俳優は、辞められません。演じなければ、生きていけません」

「血が溢れ出してきました」
「どうしよう、私もです」

「生きてりゃみんな俳優なんだよ」

「死を、どうやって証明するんですか?」

「ハグってなんだ?存在の確認だろ?」

「タイトル、変えようかな。『消えた女』じゃなくて『消えない男』に。消そうとしても、消えないでしょあの人。ええ、消えないよね」