幽斎

インシディアス 赤い扉の幽斎のレビュー・感想・評価

インシディアス 赤い扉(2023年製作の映画)
4.0
恒例のシリーズ時系列 製作順
2010年 4.4 Insidious 現代的な感性で従来のホラーを一新
2013年 4.2 Insidious: Chapter 2 別名心霊版マトリックス
2015年 3.8 Insidious: Chapter 3 流石にマンネリ感は否めない
2018年 3.6 Insidious: The Last Key 最後は鍵がカギでした(笑)
2023年 4.0 Insidious: The Red Door 本作

恒例のシリーズ時系列 作品順
①「インシディアス 序章」チャプター3が序章ってヤヤこしくない?(笑)
②「インシディアス 最後の鍵」
③「インシディアス」
④「インシディアス 第2章」
⑤「インシディアス 赤い扉」

一見さんにお薦めの順番 
①「インシディアス」→②「第2章」→③「赤い扉」本作。「序章」と「最後の鍵」はスッ飛ばしても構わない。

意外にもインシディアス初レビュー。Filmarksに移籍した時、始めた2018年以前の作品はレビューしないと言う縛りを科した事を思い出した。AmazonPrimeで鑑賞。

私の生涯一位作品「SAW」James WanとLeigh Whannellがクリエイト、「パラノーマル・アクティビティ」Oren Peliがプロデュースと言う最強タッグが、スーパーナチュラルの概念を現代風にアップデートして新世代ホラーとして絶賛された。Wanは本作とは違う、オカルト・スリラー「死霊館」プロデュースに専念、インシディアスはWhannellがクリエーターとしてフランチャイズを創り出す、ホラー映画らしいクリエイティヴ。

原題「Insidious」狡猾、本来はInsidiouslyから派生した言葉で、人がコッソリ悪事を働く。タイトルはThe FurtherがThe AstralからInsidiousに落ち着いた。シリーズのテーマは「親子の絆」。WanがSAWをヒットさせた後、多くの企画を持ち込まれたが、全てスラッシャーで脚本を書いたWhannellも「ノレない相談」と一蹴。SAWは自分で足をノコギリで切断、ディープ・ホラーでも描かないシーンも有るが、本分はロジック・スリラー、インシディアスも流血や暴力を避けると言うヒドゥン、裏設定で創られた。

共同プロデューサーJason Blumは直ぐに続編を創るゾとプレッシャーを掛けるが、当の2人は至って冷静でWanはシリーズ化の構想をしっかり練り、Whannellも「良い本が書けるまで」ソレをソニー・ピクチャーズが擁護する体制が取られ、続編は予定より一年遅れで製作。3作目はPatrick Wilsonが死霊館に専念したいと離脱。Wanは新たに「アナベル」シリーズに取り掛かる為、Whannellに演出も任せ監督デビュー。4作目はWhannellはレビュー済「アップグレード」監督の為、シリーズから一歩退いた。興業的に全て成功したが、肝心の中身は否定的なオーディエンスも多く、Whannellも「良い潮時さ」シリーズ完結を宣言。幕を閉じた、筈だった。

シリーズを続けたいBlumは(しつこい(笑)、私の好きなScott Derrickson監督「フッテージ」とインシディアスとのコラボを模索。シリーズを引き継いだAdam Robitel監督は、ソニーからレビュー済「エスケープ・ルーム」制作にGOサインが出て、インシディアスから離脱。WanもWhannellも参加せず、八方塞がりのBlumはシリーズを誰よりも知る男に電話した、ソレは「監督をやってみないか?」と言うオファー。レビュー済「ハロウィン KILLS」Scott Teemsが脚本。依頼された男は本を読んで「コレなら」と快諾。彼なら物語を上手く畳めるだろう、ソニーの読みは結果的に正しかった。

Patrick Wilson 50歳。友人が「お前、死霊館の人に似てるよな」と書いて、他薦ですが似てると公言したが、彼の特長はWanも述べてるが「役に対して自分を消す事を得意とする性格俳優と主役も張れる存在感」彼の作品に重用されるが「何を考えてるか分らない雰囲気」スリラー映画に最適。最初に彼を観たのは「ハードキャンディ」昔と今も変わらない(頭髪も含む)。珍しくスキャンダルも無く、妻で女優のDagmara Dominczyk(メッチャ美人)、声で出演もしてるが、私も見た目だけでなく、彼の様な静かな人生を歩みたい(笑)。

問題は北米で2023年7月7日公開、初登場1位を獲得。シリーズ2番目の好スタートを切った。にも関わらず日本はデジタル配信のみ。レビュー済「スクリーム6」「死霊のはらわた ライジング」同様、最近のシネコンはホラー映画を避ける傾向が顕著化。折角の音響効果も配信ではダウングレード、自宅のDolby Atmos&Dolby Visionホームシアターでも役不足。ニトリでパーソナルチェア買ったけど4K UHDで観ろって事?。

肝心の中身は(やっと本題)概ね好意的なインプレッション。Wilson初監督でドウ成る事やらと疑心暗鬼でしたが、Blumのムチャ振りを俳優目線で真摯に演出しタイミング、テンポ、シーン展開も初監督としてはクオリティ。脚本に対して、俳優の時と同じ様に自分の色を出さない控え目な演出、シリーズを知り尽くしてる俳優ならではの物語の畳み方。ヴィジュアルも低予算故の落とし処は有るが、Lipstick Face Demonも健在。感情的に訴えるストーリーテリング。視覚的な恐怖と聴覚的な恐怖のバランスも良き。更なる続編の痕跡を断ち切り、綺麗に終わらせてくれたが、逆に次も観たいと思わせる余韻は残した。

一方で初監督には酷かもしれないが、スリラーとして観た場合ストーリーラインは完全に予測可能で「本作ならでは」フレッシュ感に欠ける。演出もテンプレから抜け出せず、過去のホラー作品からの引用も見られ、何よりLGBTQを意識して黒人女性を追加した分、Rose ByrneとWilson主演2人が、作品の半分以下しか登場しない事はファンとしてシンプルに残念。主要キャストが集結した割にインクルーシブに欠ける。一番の問題はシリーズを知ってる前提で物語が動くので、一緒に観ていた一見さんの同僚は「アレアレ?」って感じで「あの人は誰?」質問攻めに合うのは間違いない。小ネタとしてエンドロールの名曲「Stay」をWilsonが歌ってるが、上手いと思う?(笑)。

アメリカでは興行成績に反して否定的な意見が圧倒的に多い。やはりWanとWhannellが直接タッチしてない故にBlumの意向が反映された結果、スケアリーポイントの継承も中途半端。インシディアスはFear Intensity、恐怖強度で言えば中の下、ド派手に怖い映画では無い。ホラーが苦手な方でも観れる点が支持を広げた訳だが、斬新な怖さを求める期待値上げ捲りの常連には物足りないのは御尤も。私なんか「愛の在るホラー」として観るので、割と共感する部分も有る。Wilsonは心を削られる優しい別れを告げる作品に仕上げた。永続的な愛とは何か?、そんな問い掛けをするホラーが在っても私は良いと思う。

総論「コレで終わらせて欲しくない」観客全員が納得するホラーは難しいと痛感した。
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