垂直落下式サミング

まーごめ180キロの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

まーごめ180キロ(2023年製作の映画)
4.6
大鶴肥満もママタルトもまーごめも、あまりよく知らなかった。バキ童のユーチューブでたまに名前があがるから、仲良しなんやろなって、そんくらいの認識でしかなかった。
本作は、ママタルトという漫才コンビの片割れ大鶴肥満なる男の密着ドキュメンタリーだという。芸名からもわかるように、大鶴義丹のそっくりさんモノマネをしている人だそうだ。なんでも、体重180キロの巨漢芸人らしい。解説役で真空ジェシカも出ているから一見の価値アリだろうし、まだ有名じゃない若手芸人の青田買いも一興かなと、たかをくくって観てみたら、とんでもない。そんなタマじゃなかった。
大鶴肥満。その人となり、風貌、頭の回転の早さ、唯一無二のキャラクター、彼の持つスター性に驚愕。明らかに、今後のお笑い界で何者かになっていくであろう人物だ。そう確信をもって言える。
映画をみたあとで、気になってネタも少し確認したけどすごく面白くて、今までなんでこの人たち知らなかったんだろって。漫才の腕もあって、しゃべりも達者で、本人の面白さも申し分ない。あとはいつどこでブレイクするかって、それだけの人じゃん。そりゃあ、おもしろいよ。
密着の内容は、大鶴肥満が母校や実家などみずからのルーツとする場所をめぐり、そこでの思い出を語っていく方式。故にほとんどのシーンが肥満のひとり語りなのだが、なんてことはないですけれども、といった具合に口から飛び出すエピソードトークは、強烈なインパクトを残すものばかり。
ひっさしぶりに、映画館で声だして笑っちゃった。いつもワタナベの事務所前でマルシアを出待ちしてますとか、このノリが続いたらキツいなあ…と思ってたら、ロシアのマッチングアプリで裸体晒され事件とか、序盤でぶっこまれるエピソードがドカンと強すぎるのよ。画面の向こう側にいる相手に上等だ!やってみろ!と江戸っ子口調で威勢よく啖呵をきったものの、相手に翻弄されていく様子が情けなくて笑(本人談)
その語り口もさることながら、ビッグマックとポテトを貪り、はなしの途中で喉がゴポッと溺れちゃう。小学校の前を通れば、みたことないくらいデカいやつがいるぞと子供たちから驚嘆の声が上がるとか、どういう人間なんだよっ。デブだから車の窓スッゲー雲ってるとかいう真空ジェシカのヤジも面白いし、ホントにめちゃめちゃ曇っててヤバイっ。
スタッフとの掛け合いもどんどこい。トラウマの小学校で苦手な食べ物をスタッフに食べさせられて半ギレで険悪なムードになるが、次の瞬間コンビニアイスを両手に満面の笑み!ここが一番ヤバかった。編集のセンス冴え冴え。愛されてるなあ。
そのあと、ほぼ勘当状態の実家に帰ってヒヤヒヤするやり取りをしたかと思えば、帰り際に父親が書いた本を手渡されるとかいうサプライズがっ。そのあと、父親からの官能小説のような怪文書メールが届くという奇跡がおこるのも並大抵じゃない。ああ、やっぱ芸人になるような人を育んだ家庭環境って普通じゃねえんだな…。すげえや。
ただユーモアがあるだけじゃなくて、しっかりとどす黒いモノも抱えており、それを隠しだてすることなく、かつて受けた怒りやトラウマによる反骨心を原動力に変えて活動しているのだと、負の感情をハッキリと明言するところも、素直な人なんだろうなって。ひとすじ縄ではいかない性格の歪みも、人間味に溢れていて好感に変わってしまう。
家族関係や恋愛がうまくいかなくて、学生時代にいじめられていたときの悔しさなど、そういう暗い過去を語るときの目付きや口調には、ハッキリと攻撃性があらわれていて、こういう褒められたもんじゃない側面もぜんぶひっくるめて「芸人・大鶴肥満」を形づくっているんだろうなと。
学生お笑い時代から彼と親交のある同世代芸人たちも複数登場して、ママタルト愛をかく語りき。慶応、青山、一ツ橋、芸人たちの出身大学とサークルがいちいち書いてあるからイラッとしたけど、彼らによる賑やかしがなかったら、こんなに面白くなかったとも思う。
僕が世界で一番毛嫌いしているシモキタ系サブカルチャー組の内輪ノリな雰囲気も、自分も上映会に参加しているように編集してくれていたから気にならなかったし、なんなら一体感をもって一緒に最後まで楽しめちゃったなー。嬉しさ半分と憎たらしさ半分。
自分のままならなかった過去を引きずって、うまいことやってる人たちに嫉妬して勝手に傷付いてんのは、俺も同じか。みんな、大人になっても学校内のカーストに縛られてんだよな。わかる。わかるよ。似たダークサイドが僕のなかにも…。
密着の最後は、肥満がマッチングアプリで出会って何度かお食事デートを繰り返したのち交際を申し込んだ女性に、告白の答えを聞きにいく男の大勝負なクライマックス!ついに運命の日。ドキドキだー。ここまで映画に付き合った人なら、みんな彼のことが好きになっちゃってるから、彼のドでかい背中を夕暮れ過ぎの街に送り出しながら、なんとかうまくいってくれと願っていた。果たしてっ!?
本当は『福田村事件』を観に来たのに、僕の確認不足で上映回を逃してしまったから、せっかく映画館に来たからなんか観なきゃなんねえぞって、調度いい時間に終わるこれにしたんだけど、予備知識ほぼナシでこれほど楽しめたんならむしろ結果オーライ。自分の杜撰なスケジュール管理が珍しく功奏したな、と。
これを観るまで、ほとんどママタルトを知らなかった僕が、次の日からは超ファンになっちゃったんだから!たいしたもんですよ。
好きなものが増えるのは、とても嬉しいこと。自分の趣味の幅は、際限なくもっともっと拡張していきたい。体脂肪率50%越えでもどんと来い。いい休日でした。まーごめ!