KANA

ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)のKANAのレビュー・感想・評価

3.8

人間ゴダールの知られざる素顔に迫った最新ドキュメンタリー。
(2022年9月に91歳で自らこの世を去る直前、第79回ヴェネツィア国際映画祭のノンフィクション・クラシック部門で上映された)

『軽蔑』のシーンと重なるように始まるオープニングがオシャレ。
『勝手にしやがれ』『女と男のいる舗道』『気狂いピエロ』『中国女』など諸作品の撮影風景や父・妹のインタビューなどのパーソナルな記録、出演したテレビ番組など、ゴダールファンには嬉しすぎる貴重な映像や写真が満載だった。
もちろんアンナ・カリーナやアンヌ・ヴィアゼムスキーによるゴダール論も。

ヌーヴェルヴァーグの旗手として時代を熱狂させた1960年代

その華々しさに自ら背を向け68年の五月革命をターニングポイントとする政治の季節を経て、70年代の内省と再生

80年代に入ってからのキャリアの復活

…インテリのシネフィルたちがとめどなく延々と喋り続けるような、容易には捉え難い映画作家の全貌をよくぞ100分ちょっとに要領よくまとめてくれたなと思う。

ゴダールってつくづく天邪鬼!
彼を知る人たちが本作で口々に語ってたのは
「彼は逆説を弄んで人を煙に巻き自分を伝説化しておきながら、それがもたらす孤独に苦しみ、自らの探究の同伴者を求める矛盾した人物」
ということ。

ハリウッド映画に憧れながら
マオマオ♪と高らかにコミュニズムを謳い
それでも深層心理ではアメリカンポップカルチャーへの憧憬を捨てきれず…
…確かに矛盾。
非常にめんどくさいやつ笑

文学作品から引用された難解な台詞や、政治的なメッセージ、ストレートとはいえないカメラワーク、洪水のような情報量…等々に拒絶反応の示す人が多いのもわかる。

ただ個人的には、多感な若い頃フランス語の授業で初めて『気狂いピエロ』を観た際に受けた鮮烈な印象が忘れられない。
60年代の作品群に見るゴダールのセンスは唯一無二。
このスノッブでアヴァンギャルドな芸術家をどうしても嫌いになれない。
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