Sari

ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)のSariのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

映画作家を取り上げるドキュメンタリーは積極的に観ないほうだが、ゴダールだから特別に公開初日に鑑賞した。
『JLG/自画像』のゴダールのナレーションから始まり、4章に渡りゴダールの人生と仕事を凝縮する。
時系列に沿って、ゴダールの代表作を取り上げながら、映画を通して新たな表現を探求し続けた、神話化したゴダールの人間的な部分にフォーカスしていくのは好感が持てる。
ゴダールが死去してちょうど一年目のタイミングで、どういったものかと関心があったが、構成は分かりやすく、例えば若い人がゴダールに興味を持てるようなものである一方で、ゴダールの熱心なファンにとっては周知の情報も多いが、反体制デモに参加したり、撮影の演出をするゴダールの秘蔵映像などもある。
ゴダールが監督した全作品を取り上げられていないのは、作家ゴダールを深掘りするなら物足りなさがある。今作で取り上げられたゴダール長編映画は全て鑑賞しているが、ミエヴィル共同監督作、短編の未見作品もあった。
一見すると誰か分からないフランスの映画研究者や映画監督らがインタビューに答える一方で、ヒロインを務めたマーシャ・メリル、マリナ・ヴァラディ、ナタリー・バイ、ハンナ・シグラ、ジュリー・デルピーらのインタビュー。彼女たちから観たゴダールとはどんな人物だったのか。マーシャ・メリル(恋人のいる時間)は、アンナ・カリーナと別れた直後のゴダールと待ち合わせたレストランで彼と会話が成り立たなかったと語り、マリナに至っては、ゴダールにプロポーズをされたが断ったことが明かされる。『彼女について私が知っているニ、三の事柄』では、髪で隠した耳のイヤホンに、ゴダールが台詞を伝え復唱している。これは、何かで読んだ記憶があるが、実際映画で見ると面白かった。また、ナタリー・バイは自分には優しかった。ただ、会話は難しかった語る。ゴダールは特に女性とのコミュニケーションが苦手で、カメラを通すとそれが可能であった、内気な性格であったことが分かるが、ゴダールの映画と同様に彼がどんな人物なのか、理解出来たとは言えないだろう。理解とはおこがましいものだが。
アンナ・カリーナがゴダールの印象を語るアーカイブ映像もあるが、内容はデニス・ベリー監督『アンナ・カリーナ君はおぼえているかい』のほうがカリーナの目線で詳しく描かれていた。唐突にアンナ・カリーナに扮した女優が登場しモノローグで語り出し、アンヌ・ヴィアゼムスキー扮する女優が登場、著書を読み上げる演出もあり、単調なドキュメンタリーにならない工夫が感じられるが、フィクションとドキュメンタリーの融合は、今作に関してあまり魅力に感じなかった。ゴダール自身の言葉が何よりも深いのでその部分を再度見たい。

▪️第一章では、ゴダールの生い立ちから始まる60年代。『勝手にしやがれ』の成功で名声を得た反発から問題作『小さな兵隊』を2作目に撮る。アンナ・カリーナとの出会い。いわゆる商業時代のゴダール。
▪️第二章では、『中国女』を始めとした毛沢東主義による政治映画期、アンヌ・ヴィアゼムスキーとの出会い、主にジガ・ヴェルトフ時代のゴダール。
▪️第三章では、ヴェルトフ時代に挫折を味わったゴダールは表舞台から去り、大きな交通事故に遭う。アンヌ=マリー・ミエヴィルとパートナーとなりソニマージュを創設。
▪️第四章では、スイスに拠点を移し、『勝手に逃げろ/人生』で商業映画にカムバックしたゴダール、遺作『イメージの本』のゴダールの言葉で締め括る。

2023/09/22 伏見ミリオン座
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