TnT

ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

-

このレビューはネタバレを含みます

 「プラン9・フロム・アウタースペース」というトンデモクソ映画を観て以降、映画を見る気が若干起きなかった笑。映画への考え方が一時的瓦解を起こしたので、脳内整理するために同じく映画の革新者であるゴダールのドキュメンタリーは、今見るにピッタリなように思えた。「何が映画だっけ?」というのを思い出すために、と。

 結論、映画とはとてつもない可能性の塊で、その殆どカオスに立ち向かった映画作家がゴダールであることを再確認した。度重なるゴダール自身の自己否定と映画であることの自己否定後、再び映画に立ち帰り、あらゆる方法論をこれまた生み出す、怪物だ。しかし、赤鬼青鬼の童話しかり怪物には悲しい一面がある。常に孤独で、映画でしかその孤独に打ち勝てず、人と話せない。そんな彼が映画と共倒れするのは、まさになるべくしてなったと。しかしこれまた伝説として語って欲しいという人の気を拒否しつつ引き続けた性の表れにも思える。イメージの距離感というか、スクリーンに目を向けて欲しいが、ある一定の距離のある観客席から見て欲しいような感じがある。近づいてスクリーンを破ってこようとすると逃げてしまう。イメージそのものの生き方がゴダールにはある。

 初手の映画「勝手にしやがれ」の壊れっぷりもさることながら、それがその後も、もうとことん突き詰められる様は凄いとしか。どんな芸術家も、一生をもってこれほどまでに変遷していく人もいない(それこそ劇中で言及されたピカソ以降の絵画が元に戻れないように、ゴダールは映画をほぼ単独で急進させた)。そして現役であり続けたこともまた凄い(映画に飲まれてチャゼルの「バビロン」の人物のようになる人が多いにも関わらず)。商業と非商業、政治、前衛、ビデオ、芸術...。映画というだけでこれらほぼ網羅しているのだ。

 ゴダールについては大体はどこかしらで見聞きした話も多いので目新しさはないが、インタビュー相手の人選の妙や、取り上げる映画のチョイスの攻めのバランスが良い(絶妙に見てないのが多かった)。しかし、本なんかで書かれたものよりもインタビュー受けた人らは皆愛のある語りをしていたなぁという印象がある。かつての女優たちの良い歳の取り方も微笑ましい。元ジガ・ヴェルトゥフ集団の仲間が、流石革命を目指した集団なだけあってか顔がマフィアみたいだった笑。あとアーカイブにちらっと映ったゴダールの妹、ゴダールの面影あるなぁ。

 ミエヴィルの元に落ち着いた風に描かれているが、その後も「フォーエヴァーモーツァルト」の女優にアタックしてるのを俺は知ってるぞ!(詳しくはゴダール短編「TNSへのお別れ」を見てほしい。その女優にフラれた気持ちが大いにのった短編である)。またアンナ・カリーナの自殺未遂は語られていたが「小さな兵隊」にてゴダールが撮影中に手首を切った話も出なかった。今作、一応TV映画らしいので、纏まりが優先だったのかなと。今は亡き女優たちを代読するのも、NHKで若手俳優を朗読に使うみたいな演出だったんだなと納得。それでもテレビにしては質高すぎだけどな。本でしか知らなかったアンナカリーナの石鹸cm、ジュリーデルピーの初々しいオーディションなど貴重映像が確認できたのも良かった。

 どうしても、ゴダールが希望を囁くのを聞くと泣いてしまう。「イメージの本」からだっけ、あのセリフは。「たとえ希望が叶わなくても、我々は希望を持ち続ける」。
TnT

TnT