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ペナルティループのJFQのネタバレレビュー・内容・結末

ペナルティループ(2024年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

「エモい」。「スターツ出版み」を感じてしまった(笑)。なんというか、電車の中吊り広告なんかで見かける「六月のなんちゃらのなんちゃらでもう一度会えたら」みたいな小説のようだと思ってしまったのだった。

青い海か空がバックで、水色か白かピンクの字で書いてあるやつ。tiktokerとかが早口で絶賛するアレというか(笑)
(実際、全体的に表紙が青く、内容も青春モノなので「ブルーライト文芸」とも呼ばれるようだ)

で、その後、若手売り出し中のイケメン俳優主演で映画化されてイオンシネマズとかで流れて。みんな「エモい」「エモい」言って。
だから「 」をつけて「エモい」と。

いや、そんなハズはないと思うかもしれない。本作のストーリーはシリアスかつ、従来の「ループもの」を何重にもひねって作られているのだし。

映像だって、「水の中のナイフ」(若葉×伊勢谷のボートのトコね)なり、「WEEKEND」(最後の事故った車のトコね)なりもオマージュされているようだし。そんなベタなやつと一緒にしちゃだめだろう、と。

けれど。映画が描いているのは大よそこういうことじゃないか。

つまり、世界は、主人公が前半組み立てている模型の家のように、はたまた、働きに行く屋内農場のレタスのように、はたまた、VRワールドのように「操作可能なもの」になったと。

「世界の中に自分がいる」のではなく「自分の中に世界がある」世界観。

であれば、人々がいい感じに生きられるよう世界をイジることよりも、世界をイジって自分の心をいい感じにしていくことが大目的になると。

そのため、自分の「エモさ(心)」を実現すべく、世界の全てが利用されると。

世界がループすることも、死刑制度も、「最愛の彼女」も、自分の「心のエモさ」のために使われる。そして、そこで起こることはことごとく「エモく」なる。

愛する彼女の復讐のために何度も宿敵を狙い続けるのって「エモくない?」と(怒りの感情に心揺さぶられない?と)

それでいて、それに飽きたら宿敵と心がつながってしまうのって「エモくない?」と。

そのうえ、Sっ気もあって、かつ、秘密も抱えてそうな彼女に振り回され「やれやれ」とか思いつつも、ファミレスでいい感じの時を過ごすのってエモくない?と。

にもかかわらず、どれだけループしてもがいても結局、彼女が自分の前から姿を消してしまうのって「エモくない?」と。

自分の心のエモさが重要だから、彼女の半生や、犯人の来歴など、極論「どうでもいい」のであって。とにかく、いてくれたり、秘密がありそうだったり、突如消えてくれたりして、自分の心がエモくなればいいのだと。

ちなみに先に書いた「ブルーライト文芸」は「夏の田舎が舞台/僕の前から彼女が消えてしまう」がテッパンなのだそうだ。

で、そんな「エモい小説のような世界」を体験してスッキリした後は、車をぶつけちゃっても「なんとか大丈夫っす」とかなんとかやりすごしながら生きていけばいい…と。

自分には、そうした「心がエモくなる世界を体験できるVRサービス」を購入した男の話のように思えた。実際、犯人も彼女も、AIで生成されたVR内存在かもしれないじゃないか?そういう設定でも成り立ちそうな話ではないか。

…というふうに書くと滅茶滅茶ディスっているように思うかもしれない(笑)。けれど、自分的には、全然違う出自の人たちが作っているはずなのに、似たようなものができていることに時代性を感じ興味を覚えている。

確かに今は、「世界の中に自分がいる」のではなく「自分の中に世界がある」ような世界観が台頭してきているのだし、自分の「心のエモさ」のために(裏返せば「心がザワつくもの」の排除のために)世界の全てがフル動員されている。

だからこそ人々は今、例えば、陰謀論ブームのように「私が生きづらいのは、●●が世界を動かしているからだ」と心と世界を直結させるのだし、SNSでは、国内や世界の「大問題」に正義をふりかざしてみせつつも、スッキリしたら忘れてしまうのだし、犯罪でもない不倫などを「心をザワつかせた罰だ(心ザワつかせ罪?)」といって執拗に叩き排除するのだった。

それは、世界はもはや複雑になりすぎて変えられない、変えたってむしろ悪い方にしかいかない…という意識の裏返しなんだろうとは思う。

けれど、どれだけ「世界の中に自分がいる」のではなく「自分の中に世界がある」と思えるのだとしても、気候変動により異常気象は起き続けるのだし、コロナのようなパンデミックがあれば人々の行動は制限される。我々は未だ?自分の外側にある世界に翻弄され続けている。

にもかかわらず、それが見えなくなっているのだとしたら、、我々はいつの間にか「そういう世界にみえるプラグ」を背中に装着されてしまっているのかもしれない…。と、そんなことを思った。
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