喜連川風連

乱れるの喜連川風連のレビュー・感想・評価

乱れる(1964年製作の映画)
4.5
これが成瀬巳喜男版堕落論か。

戦中に結婚した19歳の女が、夫に先立たれ戦後未亡人となる。その後、嫁入りした家を支える。

戦死してもなお家庭を支える貞淑な妻として家庭を盛り立ててきた高峰秀子は、そうする代わりに「女」を捨てて生きてきた。

だが、それも戦死した夫の弟が成長するにしたがって、家のパワーバランスが乱れていく。

弟(25歳)は兄の嫁(38歳)に好意を抱き、ついには告白する。それに慟哭する嫁演じる高峰秀子。

これまで捨ててきた「女」を求められたことに嬉しさを感じつつ、死んだ夫への罪悪感や社会通念を守る気持ちというジレンマに苦しむ。弟はさらに仕掛ける。

わざと女の家に、時計を忘れ、それを届けさせ、高峰秀子に嫉妬させようとするも、失敗。秀子のおかずを頬張り、間接キスを試みようとするも失敗。

だが、そのたびに、彼女は弟を意識してしまう。1階の寝床に2階から弟が降りてきた時、目覚める彼女。女として求められたい想いと、今までの価値観や生活を捨てる怖さに揺れる。

こうして毎日がいたたまれない気持ちの彼女は家を飛び出すことを決心する。

呼び出した場所は寺。

恐らく、夫の墓があるのだろう。夫の墓前ではないと踏ん切りがつかない、そこまで彼女は追い詰められていた。

こうして故郷に帰ろうとするも、帰りの汽車に弟はついてきてしまう。混んでいる電車の遠くの席に座った弟が、あの手この手で、秀子を意識させ、近づいていく演出がとても良い。素晴らしい。

図らずも2人きりの楽しい旅行となる中、気持ちが抑えられなくなり、涙が溢れてくる秀子。電車を降りる2人。

銀山温泉に泊まる。
「一夜限りの」という意味で藁の指輪を弟にこしらえる。

貞淑に整えてあった女の心は乱れ続け、最後はある事実に髪が乱れる。

ここまでやるせない映画は昨今の邦画にあっただろうか。

スーパーマーケットの登場があたかも戦後からの商店(価値基準)を破壊する存在かのように暗示されるのも象徴的。

「スーっと出てきてパーっと消えるのがスーパーだと思ってたけど、消えるのは俺たちの方らしいなあ」

カメラは、真面目に発言者を捉え続け、カットが細かくなるところは人物を巧みに移動させ、ワンショットに発言者が収まるよう調整する。

職人監督と言われた成瀬監督の性格が伺えた。
喜連川風連

喜連川風連