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乱れるのtntnのレビュー・感想・評価

乱れる(1964年製作の映画)
4.5
『ブレードランナー』で、レイチェルがデッカードの家で髪をほどきながらピアノを弾き始めるのは、お前は人工のレプリカントだと告げられ自分の過去や記憶を一切信じられなくなった状況で、自分の内面をこじ開けながら何とかアイデンティティの根拠を探しているから。
一方で、本作の礼子は、幸司に思いを告げられた後に、部屋の電気を消して眠りにつく(ことを試みる)。半年しかない結婚生活に18年間を犠牲にした人生、戦死した夫や清水の商店を切り盛りしていた自分の過去をこれ以上暴れさせないように。
自分の気持ちに最後まで向き合えない礼子に対する成瀬の視点は厳しい。
スーパーマーケットのセールのアナウンスは死を予感させる不吉な前兆。
ノイズであり、登場人物の思惑を掻き乱す音が、連鎖する。
しかし、幾らでも盛り上げることができるはずのクライマックスでは、遂に何度も鳴っていた黒電話の音が鳴ることはない。
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