ななし

乱れるのななしのレビュー・感想・評価

乱れる(1964年製作の映画)
4.5
序盤から中盤にかけての話運びの圧倒的な巧みさにため息がでる。

酒屋・森田屋の女主人である礼子(高峰秀子)は、子どももおらず結婚半年で夫に先立たれるが、夫の家である酒屋を義母に代わって切り盛りし、スーパーマーケットが台頭する今日まで、ほぼ独りで店を支えつづけてきた。夫の弟で森田屋の次男である幸司(加山雄三)はいちどはサラリーマンとして就職するが、すぐに仕事をやめ、母と義姉である礼子と同居しながら、酒やバクチに明け暮れる無軌道な生活を送っていた。

そんななか勢いを増すスーパーに対抗するために、幸司は家を出た長女・久子(草笛光子)の夫と森田屋をスーパーマーケットにする相談をはじめる。幸司はこれまで森田屋を支えてきたのは本来は赤の他人であるはずの礼子であるから、スーパーを経営する会社にするにはまず彼女を重役にすべきと訴えるが、母や姉たちはそれに遠回しに反対する。礼子は身を引こうとするが、幸司は納得せずにあろうことか、「ずっと義姉さんのことが好きだった」と言い出して――というストーリー。

夫に先立たれたなかで、戦後の焼け野原から十年以上をかけて店を支えてきた礼子の健気さと、スーパーマーケットの出店という激震のなかで、徐々に彼女を疎ましく扱い出す森田家の面々と、それにひとり反発する幸司という物語の”構図”が極めてスムーズに描き出されていく。このあたり、監督の職人的な技巧の賜物という感じで、この手のジャンルが好きか嫌いかは関係なく、ただただ「う、うめえ……!」と圧倒されざるをえない。

その後、けっきょく礼子は森田屋を出て実家へと戻る夜行列車に乗るが、追いかけてくる幸司に徐々に心を「乱」されていくさまには、胸をかきむしられるよう。そして、ラスト。なんという虚無感。どういう気持ちになれと?
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