コマミー

⾼野⾖腐店の春のコマミーのレビュー・感想・評価

⾼野⾖腐店の春(2023年製作の映画)
3.8
【出会いと門出の春】




"春"は、人は"「出会いと別れ」"の季節だと言うだろう。
そして、春に限らずかも知れないが、春は"橋渡し"の季節でもあると思う。いわゆる新たな"門出"の季節だ。自分にとっての大事な人に何かを託し、託された人は新たなスタートを切る。この季節はそんな季節でもあると思うのだ。
そしてある人には、新たな出会いもあるだろう。若い世代に限らず、その上の世代ももしかしたら運命の出会いが待っているかもしれない。

本作はそんな人間の"美しい瞬間"を、"尾道"を舞台に、非常に味があり、そしてチャーミングに描いたドラマだ。

"豆腐店"を営む"親子の交流"を描いているだけでなく、主人公である"辰雄"が出会う年老いた女性に"中野ふみえ"と言う人物がいるのだが、この2人が共通するのがあの"広島の戦火"を生き延びた人物だと言う事だ。戦争の事についても考えさせられる作品にもなっている。
そして"娘:春"の門出に困惑する父:辰雄の"内なる思い"も、辰雄の"ぶっきらぼう"さでなかなか出ないものの、その思いが後々出るたび、涙腺を刺激させた。2人共に"頑固"な所も、後半の物語に味を与えてくれる。

辰雄自身の新たな出会いと娘:春の新たな門出の瞬間を通して、1人の年老いた男が「愛情」について見つめ直す作品となっていた。辰雄を"取り囲む街の人達"の優しさも相まって、それはとてもチャーミングで美しかった。
そしてそんな辰雄を"藤竜也"さんが演じているのもまた良かった。娘の"女心"がよく分かっていないのを「お見合い」やそのシナリオという形で暴走させて、見ている我々をイラつかせたり、娘自身が見つけた相手の事をなかなか認めなかったりと、とことん人を傷つける光景が鼻についたが、優しさをうまく表現できない彼なりの愛情の裏返しなのだろうなと感じた。
そんな辰雄が、ふみえに対して一生懸命に想いを寄せようとして、彼女が"大きな手術"を控えた時には真っ先に駆けつける姿が健気でめちゃくちゃかっこよかった。

これは誰が見ても心が満たされる、ハートフル・ストーリーであった。穢れがないし、何より登場人物が全て愛おしい(ふみえの親戚以外は)。
それと同時に辰雄やふみえみたいな人達が、生きづらくなる世の中が着々と近づいている事が哀しくて仕方がなかった。時代背景が、"平成から令和に切り替わる前"を舞台にしたのもそういう意味があって頷ける。

朗らかになるし、考えさせられる作品でした。
コマミー

コマミー