三月

⾼野⾖腐店の春の三月のレビュー・感想・評価

⾼野⾖腐店の春(2023年製作の映画)
3.9
豆腐が好きだし、麻生久美子も好き。という理由で、それ以外は特に前情報を入れずに観に行った。

豆腐作りの様子は、映画やドラマやドキュメンタリーなどで目にする機会が時々あるけれど、これを作る人はだらしない性格やうす暗い邪念を持っていてはいけない、という印象が私の中にずっとある。

透き通った水をくぐり出来上がる白く四角いその食べ物は、とても繊細でピュアな存在感があり、作り手の心のあり方がそこに反映されてしまうような気がする。
この物語に出てくる親子は、最初のシーンの声の質感、立ち姿からすでに、豆腐を作ることができる人間ということがよく分かった。

広島の尾道が舞台であり、平成が終わる頃になってもなお爪痕を残し続ける戦争の影が時々日常を覆いはするけれど、人々の繋がり、優しさ、強さがそこをこえて希望を紡ぎ、季節がゆっくりと巡っていく。

これはネタバレになるのかもしれないけど、
途中、私の中では「男はつらいよ知床慕情」で淡路恵子に告白をする三船敏郎に向けた以来の大応援を送る準備を着々と整えていたのだけど、
今作の2人にはスローで自然な時間が積み重なっていくままに描かれており、それはそれで素敵だった。藤竜也さんの発する「中野さん」の響きが優しくて少し不器用で微笑ましい。目を細める笑顔も可愛くて良い。
それとは対照的に、メタ的な演出として藤さんがドスの効いた声で相手を見据える場面(サービスなのか、わりと何回かある 笑)は、突然任侠色が前面に押し出されてしまうのでつい笑ってしまった。

ところで、こうした誠実な人情ドラマを封切り直後の朝の上映回に観にくるお客さんには熟年のご夫婦や往年の邦画ファンの割合が多く、ここぞという笑いどころで漏れなく朗らかな笑いが起こるので、気持ちが良くほのぼのとした空間になり、好きだ。
三月

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