ハル

⾼野⾖腐店の春のハルのレビュー・感想・評価

⾼野⾖腐店の春(2023年製作の映画)
4.2
素晴らしい作品。
ピュアな愛情で彩られた、手作り感満載の邦画だった。

「おはようございます!今日も宜しくお願いします!!」
気持ちの良い挨拶を交わし、父一人、娘一人の1日がはじまる。
朝日の上らないうちから、せっせ、せっせと豆腐作り。
一仕事を終えた後は“豆乳”で乾杯。
丁寧な所作で心を清らかにしてから物語は幕を開ける。

鑑賞前はガチガチな職人の話と思っていたけれど、本筋は異なる。
高齢になり、病気を抱えた父親が娘の結婚相手を探すことで互いの存在、家族としての在り方を今一度見つめ直すお話。
まず、娘役の麻生久美子がとても魅力的。
器量よし、美しく、頑固な一面は父親似。豆腐職人として父を尊敬する一人娘を好演。
バツイチとなり、実家に戻ってきてからは豆腐屋の仕事を学びながら毎日を過ごすハル。
「ニガリが豆腐の人格を決める」
娘として、父の凄さを語るシーンが沁みた。

そして…娘のことが可愛くて可愛くて仕方ないのに素直になれず、喧嘩ばかりで職人気質の親父を藤竜也。
憎めないチャーミングさ。
感情表現するのが照れくさく、どこまでも子供なお父さん。
「もう素直になりなよ!」
何度もたしなめたくなるけど、不器用なりに一生懸命頑張っているから、応援したくなってしまう。

娘への想いが具現化して感じ取れるほど、純粋な愛がスクリーンの中に降り注いでいた。
僕には子供がいないので、どれほど深い愛情なのかは計り知れない。
ただ、ずっと生活を共にしてきた愛犬が他所の家に行く事になり、別々の生活になってしまったらと思うと…絶対に嫌だし、お父さんと同じ様になるはず。
そうした気持ちに近いのかもしれないね。

ラストのバトンタッチを見届け、過った感情。
それはこの映画が僕の原点だという事。
劇場へ行き、派手なアクションに心を弾ませ、或いは張り巡らされた謎に頭を悩ませる時間は堪らない感覚。
まさに映画の醍醐味だと思う。
けれど…こうした古き良き文化を伝えゆく作品を心の拠り所にして歩みを進めたいと切に思う。
“戻りたい場所”を悟らせる余韻が『高野豆腐店の春』には内包されていたんだ。

本当に良い作品なので、お近くでやっていましたら是非劇場へ足をお運びください(200程度しかレビューがないのは、淋しい)
邦画の魂、日本の文化を感じられるオーダメイドな名作がもっと多くの方へ届きますように。
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