シシオリシンシ

駒田蒸留所へようこそのシシオリシンシのレビュー・感想・評価

駒田蒸留所へようこそ(2023年製作の映画)
4.1
P.A.WORKS制作の「お仕事シリーズ」の最新作。当方、このお仕事シリーズと呼ばれるアニメ作品は殆どのシリーズを追うくらいにはファンなので、一定の期待値を持って今回観賞に臨んだ。

駒田蒸留所の若き社長の駒田琉生が震災によって失われた幻のウイスキー「KOMA-独楽-」を復活させるために奔走し、その復活のための道のりを取材する新人記者の高橋光太郎が仕事のやりがいに目覚めていく。
二人の主人公の二つの過程を、粛々とストイックに物語を積み重ねていくストーリーラインで語られており、決して派手なドラマではないが丁寧に描かれていて好感を持てる。

琉生は絵の道から蒸留所の社長へ。
高橋はバンドマンから記者へ。
他にも琉生の兄の圭や高橋の上司の安元も元々目指していた道とは違う仕事の生業にして歩んでいる。
本来やりたかったこととは違う道に来てしまったことに悩み、迷い、しかし経験の蓄積や出会う人々との関わりや縁で、本意ではなかったはずの今の仕事が本当にやりたいことになっていく、という普遍的で共感の持てる仕事観が登場人物の(映画内では高橋の)成長を通して一貫して描かれていた。

駒田蒸留所の存続を巡り対立していた琉生と兄の圭との間で「独楽は家族のお酒」という共通の思いがあったことを高橋を介して知り、終盤は琉生と圭が和解して独楽を復活させることに先進する。
かつて父が作っていた独楽のように、母が試飲して良い表情を見せたことで独楽という幻のウイスキーが復活する=家族の絆の再生がリンクして綺麗な方向に収まるというのが見事な落としどころで良かった。(もう一人の主人公である高橋を終盤に無理に介在させたりせず、主人公二人を恋愛というキャッチーなドラマに頼らず信頼を軸とした関係性に終始させていたところも真摯さを感じた)

マイナスポイントは無く十分に満足の行く観賞後感を味わえたが、映画として観る醍醐味があまり感じられなかったのは惜しい点。美麗な作画やこだわり抜かれた音響、劇的に心を揺さぶるドラマなどを感じるような作品ではないため、映画館で観るにはどれか一歩、秀でた点があればなお良かったと思ってしまった。

あとは私個人の問題として、下戸でお酒をあまり飲めないため、この映画でのウイスキーについてのこだわりや知識の造詣の深さに関心しつつも、己の強い関心事として受け取れなかったところもあった。ウイスキーの蒸留所の役割や一からクラフトウイスキーを作ることの大変さなどは映画内で凄く丁寧に描かれていただけに、「私がお酒好きだったらもっと楽しめたのだろうなあ」と口惜しい思いが…。

私とは逆に、お酒に関心や興味がある人やウイスキーの理解や造詣を深めてみたいという人には、より良く観賞できる上質なお仕事映画になっていると思うので強くオススメしておきたい。
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