のすけ

うまれるののすけのレビュー・感想・評価

うまれる(2021年製作の映画)
4.2
久々にすごい作品に出会った。

重い‥辛い‥苦しい‥
胸糞‥共感‥でも葛藤‥自分なら?‥怒り‥生と死‥愛‥涙‥

たった33分のショートフィルムにこれだけ感情を揺さぶらるとは‥完全に油断していた。
100分以上のクオリティに仕上がっているし、素人の集まり的にも見えるキャストたちの演技がなんだかんだリアルで素晴らしい。
編集や血の感じや‥どれも完成度が高く、全体的にショートフィルムのクオリティではなかった。この監督さん今後が楽しみ(紺色シャツに血の跡や穴が開いてなかった点だけ残念)
国内外の賞14冠らしい。それにしては観ている人が少ないし残念。もっと話題になっていてもよさそうなのに。これは是非多くの人に観てほしい作品でした(胸糞嫌い、血嫌い等の方は見ないほうがよいですが)

余計なプロットを排除し誰もが嫌な予感を抱えながら終盤を迎えるが、そこでまた違った映画の顔を見せられて少し困惑しつつも納得されられてしまう。
33分だから良いのかもしれない。SNS時代にTikTokが生まれたように、映画にも30分がベストという時代がやってくるのかもしれない。個人的にはそれじゃさすがに短すぎてつまらないと思っていたが、この作品を見る限り30分でも100分の濃度を持った作品を作れるのだと未来を感じさせてくれる。

『生』‥救えるはずだったハサミが、『死』‥復讐へのトリガーになる。

「必死に殺す」と「必死に生む」
主人公と同化し同じ感情で観ていた自分は、突如『生』との不思議なシンクロ体験をすることになった。そこではじめてタイトルの秀逸さにも気付く。
胸糞で残酷な復讐劇でありながら、この作品のテーマはもっと深いものだった。 
母親ではないから経験者ではないけれども、女性が子供を生むことは、人間にとってこれほど壮絶で尚且つ尊いものは他にないはず。
そうして生まれた大切な命が奪われてしまうということの重み、怒り、悲しみ、喪失感、いつまでも変わらぬ愛‥これらは皆分かっているつもりでも本来そうなった人にしかわかり得ないことなのだろう。映画を超えてそのテーマを突きつけられた感じがした。

そのラスト付近の『生』は、見る人によっては単なる回想シーンかもしれないが、私には監督の意図が見えた気がした。
『死』‥善良な人間が人を怒り殺すほどの感情と、『生』‥何にも代えがたい命がうまれる瞬間、どちらも壮絶で、どちらも尊い命で、どちらも同じ重みであるはず。
しかし殺しとなると『死』が軽んじられるケースが圧倒的で、その重みはイコールになっていない。
普段そういう映画ばかり観ている自分には強烈な右ストレートをお見舞いされた感じで、監督は観ている者にその重みをイコールにさせることに成功したのだろう。だからこそこの『生』と『死』に思いっきり感情を揺らされた。

冒頭の3カットを思い返せば、顔→顔→タイトル。『死』→『死』→『生』だ。
この作品は『うまれる』ことをテーマにした上でその『生』をサブプロットとして見せることで、『死』へのリアリティを圧倒的に高め観る者の感情を揺らしている。
傑作だ‥