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うまれるの消費者のレビュー・感想・評価

うまれる(2021年製作の映画)
4.2
・ジャンル
ショートフィルム/ドラマ

・あらすじ
娘、裕美を転落事故で失ったシングルマザーの安川良子
しかし彼女は生前、娘が天然パーマを理由に同級生からイジメを受ける場面を目にしていた事から事故と受け入れる事が出来ずにいた
そんな中、裕美の同級生で友人だった響の口から死の真相が明かされる
裕美はいじめっ子達のリーダー格クミの指示で仲間のハルミが突き落としたのだと…
疑念が確信に変わった瞬間、良子はいじめっ子達に詰め寄るのだが…

・感想
幼い娘を失い他殺を疑う母の苦悩を描いたショートフィルム作品
昨年話題になっていたのを見てU-NEXTに来ていたので鑑賞

ショートフィルムなので尺は30分超と短いけど、その中で出来る全てを出し尽くしていて素晴らしい作品だった
子の死を受け止めきれない母、同級生をふざけ半分で死に追いやったいじめっ子達、そしてその保護者達と担任教師…
全ての立場に十分に焦点が当てられていて人間の弱さという物が極めて生々しく感じ取れた
グループセラピーの主催者が宗教勧誘をする場面もまた弱い人間が他者の弱味に漬け込むというよくある光景で良いアクセントになっていたと思う

構成も巧く、いじめっ子達が責任をなすりつけ合い逃げた後にその保護者達が同じ様な行動を取り挙句、良子を責め出すという2つのシークエンスの並びが凄く良い
知能の面でも力の面でも精神力の面でも子供は脆い
しかし大人もまた同様に脆く、そこにより強いズルさが加わってくる
この2つが比較される様に並ぶ事で社会の縮図という物が秀逸に表現されていた

そして最後に良子が取る選択も単なる殺人ではなくタイトル「うまれる」の持つ意味を示す場面として素晴らしい
子を失う痛み、人を傷付ける痛み、子を産む痛み…
これらが重なり合い全てから解放される間際のラストは物悲しく涙を誘う

またキャラクター造形も短い尺ながらはっきりしていて振る舞いやファッションなどから明確に違いが見て取れる
予算を掛けず有名なキャストが1人もいない状態でよくここまで練り上げた物だなぁと感心しきりだった
「みなに幸あれ」の様に長編化したらより濃厚な物が見られそう

邦画の斜陽ぶりが非難される様になって久しいが邦画ならではのジメッとした質感という物は賛否分かれるものの今でも存在する
それを上手く活かした良作と感じた
「許された子どもたち」や「空白」、「さがす」等が刺さった人にはハマると思う
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