鶏

四月になれば彼女はの鶏のネタバレレビュー・内容・結末

四月になれば彼女は(2024年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

『ロケ地は最高でした』

予告編でウユニ塩湖の映像がたびたび出てきたので、この映像を楽しむために本作を観に行って来ました。ウユニ塩湖のほか、プラハの街並みやアイスランドの海辺の風景など、世界名所巡りとして期待通り映像を堪能しました。ただこれらのシーンは伊与田春の回想シーンに限られており、思ったより時間が少なかったのがちょっと残念ではありました。

また撮影地に関して、望外の驚きもありました。佐藤健扮する精神科医の藤代俊が勤務する病院のシーンで、なんと自分が入院したことがある病院が使われていたこと、さらには後半登場する海辺のホスピスが、以前2回宿泊したことがある茨城県北部のホテルだったことに気付き、妙に心躍りました。もう一度入院したくはありませんが、ホテルには再訪したいと感じたところです。

お話の内容の方ですが、結婚を間近に控えた獣医の坂本弥生が忽然と姿を消してしまい、お相手の藤代俊が彼女を探すというものでした。この辺りの話の構造は「市子」と瓜二つなのですが、戸籍のない市子の驚くべき半生を振り返り、殺人まで発生した「市子」のシリアスな展開とは違って、藤代、弥生、春の3人の”愛”に対する思いが綴られた作品で、ある意味安心して観ていられる展開だっとと言って良いと思います。

恋愛の話なので、人それぞれ、色々な形があるのは重々承知の上ですが、映画として描くのであれば、当事者の出会いから付き合うきっかけ、さらには結婚することになった経緯やその間の2人の関係性などが分からないと何とも言えない部分もある類いの話だと思います。本作では藤代と春、そして藤代と弥生の出会いや付き合うまでの経緯はそこそこ詳しく描かれていたものの、特に藤代と弥生が同棲し、結婚するに至るまでの経緯が大幅に省略されていた感がありました。

そこにこそ弥生が姿を消した原因が潜んでいた訳で、最初から全部を種明かししたら話として成り立たなくなってしまうのかも知れませんが、藤代が周囲の人から2人がセックスレスだったんじゃないかと指摘され、どうやらそれが図星だったらしいことなどが明らかになるにつれ、どうも首を傾げざるを得ないことになって行きました。セックスレスで別れるのって、夫婦になってからの話でしょうし、付き合っている時に相性が悪いのであれば、そもそも結婚しなければいいだけの話です。また、同棲なのに2人が別々の部屋で別々に寝るなんて、少なくとも私には理解できないところ。勿論当事者同士の自由であり、考えは人それぞれですが、弥生が触れ合いを望むのに藤代がそれに応えてくれないなら、それこそ結婚の決断をする前に別れるべきでしょう。

結局姿を消した弥生は、春に会うために彼女が入所するホスピスに勤務していた訳ですが、正直著しくリアリティに掛けるし、全く共感も出来ませんでした。心情的には、端的に言ってジェラシーであり、非常にコンプレックスな気持ちなんだろうとは思ったものの、婚約者に何も告げずに姿を消しつつ、獣医の仕事も放り出して婚約者の元カノが入所するホスピスに就職までするなんて、ちょっと考えられません。最終的に2人はよりを戻してエンディングを迎えましたが、実際藤代の本質が変わったとは思えないし、今後予定通り結婚するに至っても、果たして上手くいくのかどうか甚だ疑問に思ったところです。

最後に俳優陣のお話を。個々の演技は良かったと思うものの、現在35歳の佐藤健と、22歳の森七菜が、先輩後輩の関係とは言え同じ時期に大学に通う学生だったというのは、ちょっと無理がある設定かなと思いました。俳優の実年齢をとやかく言うのは野暮なのかも知れませんが、藤代と春が付き合っていた学生時代から10年経過した時代を描いている割に、学生時代と現在のコントラストも感じられず、そのため話に奥行きを感じることも出来ませんでした。

そんな訳で、世界名所巡りとしては満点であり、個人的に縁のある場所が2か所もロケ地として使われていた点も良かったのですが、お話の方は合点が行かない部分が多かったので、本作の評価は★3とします。
鶏