Oto

四月になれば彼女はのOtoのレビュー・感想・評価

四月になれば彼女は(2024年製作の映画)
3.6
元カノから手紙が来て、今カノが突然消える話。『500日のサマー』を二人同時進行でやるような映画だった。
山田監督作品で、広告畑の人間としてはみておいた方がいいなと思ってたやつ。

「医者の不養生」というアイデアが面白い。川村さんは徹底的に取材をして見つけ出した面白いファクトを起点に膨らませるとよく話してるけど、今回はここが起点にあったと推測した。
医者の離婚率の高さ、精神科医の鬱になりやすさ、とか純粋に興味深い発見。獣医も解像度高く描かれてる。

ただ一方で、発見を超えた感動までは至らなかったのが正直な感想。
ままならない人生を描こうとしていて共感したけど一方で、その描き方が「ままなってしまっている」雰囲気を醸し出していて、キャスト・ロケ地の規模感と、脚本・個人的なテーマとのギャップに、不思議な感覚になってしまった。


一番は、強引でご都合主義な展開というノイズが多い。
佐藤健くんがあたかも「罪人」のように描かれてるけど、そんなことなくない?普通にいい夫じゃない?太賀くんはなぜキレてる?

社会人なんて別部屋でゲームするとか全然あるし、思い出を忘れてしまうことだってあるけど、その中でディナー予約して祝おうとしてたりしてるのに、なんで河合ゆみもあんな態度なんだろう。
そのせいで長澤まさみがむしろどんどんヤバいメンヘラにしか見えなくなっていった。森七菜と対照的に、彼女の背景がほぼ描かれないのも一因で、人嫌いだから動物が好きとかもクリシェだなぁ。

一番の謎は、排水溝に詰まった髪。例の写真と合わせて完全に余命を悟ってのものだと思ったけど、そうでもなかった。言い出せないような夫だったならまだ責められるけど、そうでもないのに黙って消えたのは完全に自分の都合じゃんと思った。結局は些細な違和感を見過ごしているという説明描写に過ぎなかった。

細かいところでも、なんで例の大事な死の報告をPENTAXがやるんだう?とか、どうやって施設に辿り着いたんだろう?とかかなり引っかかる。
特に前者は絶対に竹野内豊がやるべき役割だと思った。あんなヤバい存在感の人がワンポイントだけなのかなり違和感。1日しか撮影呼べなかったとかなんだろうか…。

結末も、動物について理解したことが反省の証みたいに描かれてるけど、そうではないでしょう。『花束みたいな恋をした』でも描かれたように、そういう記号的な共通点を通してつながる関係はすごく脆くて、もっと深い精神的なものを描くべき。
そもそも「本当に知りたいと思ってないでしょ?」とかもそんなこと言われるようなことをしてないと感じた。


逆に好きだったのは、早朝の日の出の告白。「PENTAXには遅い時間伝えたから」「これは言おうとして準備してた」とかいいセリフだなぁと思った。並走して歩く会話の距離感とかも好き。
あの二人に関しては出会いから素晴らしくて、「雨の匂いとか、街の熱気とか、人の気持ちとかを撮りたい」とかすごく好き。

すれ違いに関しても彼女には一番共感できて、どっちかを選べない瞬間ってあるよね…。たとえその結果として両方失うことになるにしても。
ありきたりな余命ものにしないで、そこを伏せたという選択も上手いなと感じた。

倒れていい感じのナレーションが当てられて、という描写はあまりにも広告的でなんだかなぁと思ったけど、やっぱり映画とCMは文法が違うという学びになった。
藤井風がよすぎるから、いい感じに締まった感じがしたけど、よく考えると腑に落ちないところがかなり多い。

フィルムを現像して謎を知るのは少し『死刑台のエレベーター』を連想したけど、沢山ぶら下がっている絵はアントニオーニの『欲望』みたいで好き。言及されてたイタリアの映画はフェリーニの『道』かな。


なぜ施設を訪れたのか?を語りあうと面白い。「なんとなく気づいていた」はあまりにも察しが良すぎる(その前に「新しい人を探す」とか匂わせてはいる)けど。
自分だけが知っている感情がそこに描かれていて他人に思えなかったのと、それと同時に、代わりに幸せを奪ったかのような感覚になってしまったのかなぁと思った。

『恋のいばら』と少し近いけど、歴代の恋人が結託するという企画にはすごく可能性感じている。やっぱりこんな豪華キャストと海外ロケでやるよりも、今泉さんみたいに無名キャストで国内で描いた方がマッチする気はするけど。
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