シシオリシンシ

仮面ライダー555(ファイズ) 20th パラダイス・リゲインドのシシオリシンシのレビュー・感想・評価

4.4
20年目だからこその挑戦的な試みをしつつ、予想を裏切り、しかしファンの期待は裏切らない。まさに仮面ライダーファイズへの愛に溢れた作品になっていたと思う。

ファイズの主題である「異形の者(オルフェノク)になってしまった主人公の苦悩と葛藤を描き、そして自分の"夢"を見つけるまでの物語」を語り直しつつ、今回その主題を背負うのが園田真理というところが衝撃的かつ挑戦的な今作の試みである。
オルフェノクの記号を持つ真理が人為的に記号を活性化させられ、オルフェノクとして覚醒し狂気に呑まれるというのはショッキングなシーンであるが、かつての巧がそうだったように自分の有り様を受け止めてくれる人(真理にとっては巧)の支えで生きる力を得て、守るべきものを守るために戦う決意をし、彼女は次のステージへ上がった。
原典では巧や草加にとっての守られるべき者の象徴であった真理が、20年の時を経て巧と結ばれパートナーとなり、そして巧と背中を預け合う戦士として戦場に出るオルフェノクとしての姿は、彼女が至るべき必然のゴールであり新たなスタート地点だったのだと思えてならない。

巧が何故生きているのか? については細胞の分解を抑える投薬とコールドスリープ的な治療装置によって延命していた、と妥当に納得できるものではある。

しかし草加や北崎といった原典で明確は死が描写されたキャラクターに関しては、アンドロイドだったという解答が出されているが、字面だけみると「なんじゃそりゃ!?」な雑で陳腐で肩透かしな復活に見えるだろう。
しかしその雑さは承知の上で、草加役の村上幸平さんや北崎役の藤田玲さんが持ち前の演技力でその設定に見事説得力を持たせた素晴らしい芝居を見せてくれた。
そもそも原典のファイズ自体、設定面は雑な部分や投げっぱなしで回収されない設定が多々あり、こういう雑さも込みでファイズらしいと思えるファンが多数を占めると思うので、これで良いのだ。

井上敏樹脚本において重要なのは、「キャラクターの生きざまをどう魅力的に描くか」であり、そのためなら設定や伏線は投げっぱなしにしたってかまわないという潔い美学が貫かれている。
今作もその例に洩れず井上敏樹脚本のメソッドに則られたファンならば「変わらない安心感を覚える」シナリオだったに違いないし、20年間の執筆活動を経た上でのさらなるテーマの成長や成熟も感じられた。
「単なる同窓会映画になどしてやるものか!」
という井上敏樹らしい野心と気概がしっかりと汲み取れる熱いシナリオだったと思う。

本作ではネクストファイズやネクストカイザ、ミューズといった新世代のライダーたちが主たるアクションを担っている。

ミューズに関しては完全新規のライダーということで馴染めるか心配だったが、未来予測や変身者によって攻撃法が変わるなど限られた尺の中でも思いのほか個性を発揮出来ていて好感触。変身者である麗菜も井上脚本の御多分に洩れずひときわアクの強い女だが、演じ手の福田ルミカさんの好演もあり違和感なくファイズの世界に溶け込めていたと思う。(惜しむらくは終盤でのキャラの心変わりが尺の都合もあり唐突だったところか)

ネクストファイズはアプリでの武器召還やアクセルフォームへの変形ギミックというサプライズがあり、動くとカッコいいという平成ライダーあるあるを見事踏襲していた。

ネクストカイザは特徴的な変身シーンのアクションやデザインのカッコ良さは良かったが、次世代システムであるアプリを使ったギミックやアクションがほぼ見られなかったのは少し残念でちょっとだけ惜しいポイントだった。(ネクストのシステムならもしかしたらカイザアクセルフォームも実現できたのかも?)

しかしなんといっても、今回のアクションにおける最高のブチ上がりポイントは、元祖ファイズへの復活からの『Justiφ's』が流れる最終決戦のシチュエーションに尽きるだろう。
啓太郎の甥から手渡されるファイズギア、「わかってんじゃねえか!」と歓喜する巧、お馴染みの姿への変身、オートバジンバトルモードの参戦(今回は死なない!)、ファイズエッジ・ショット・ポインター(+フォンブラスター)を全て使ってのバトル、ファイズの巧とオルフェノクの真理のコンビネーション・クリムゾンスマッシュ、そしてスクリーンを紅に染める"Φ"の紋章!!
ファンならばクリティカルヒット間違いなしの最高のカタルシスを浴びて、つい私は涙が込み上げてしまった。
「これが見たかったんだ!!」と。

本作での出来事は世界全体で見れば、スマートブレインを復活させた黒幕は一切登場せず、巧たちは傀儡の一部を倒したに過ぎず、さらなる野望の種が着々と目覚めようとしている。
と、この先ヤバいことしか起きそうにないベリーハードな状況であり、この世界にはヒーロー番組の最終回ような絶対的な平和なんて未来永劫訪れないのかもしれない。

しかしそんなことは大したことではない。

西洋洗濯舗菊池のリビングで巧や真理たちが笑顔で食卓を囲み、かつては死の匂いを漂わせていた巧が「手の生命線が伸びた」ことに小さな喜びを感じ、今を生きて、その今を未来にしていく。
これが巧たちにとっての『パラダイス・リゲインド=楽園を取り戻した』ということなのだ。
優しくないことだらけのこの世界で、小さな居場所で種族の違う仲間たち同士が優しさを持ち寄り、大事な人と今を精一杯生きていく。
そんな深い優しさに満ちた結末を20年目のファイズで見られたことが、リアルタイムからのファンである私にとって至福の喜びであるのだ。

先行上映後の完成披露舞台挨拶にて巧役の半田健人さんが、「この作品がファイズの新たなスタート地点であり、次の10年、20年とファイズを続けていきたい」と語っていた。
キャストや製作陣、そして求めるファンの声があれば『仮面ライダーファイズ』という「小さな地球(ほし)の話」の未来が紡がれていける。いちファイズファンとしてそんな未来を夢見たいと思った。そう胸が熱くなる観賞後感であった。
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