メガネン

世界のはしっこ、ちいさな教室のメガネンのレビュー・感想・評価

4.2
ロシアから、少数遊牧民族エヴェンキ族の村で、スヴェトラーナ・ワシリエワさん。
バングラデシュ、スナムガンジの船上学校で、タスリマ・アクテールさん。
ブルキナファソ、ワガドゥグーの仮設学校にて、サンドリーヌ・ゾンゴさん。

北からに南、赤道付近まで3つの国の三つの異なる環境の中で、子ども達と向き合い、教え、学び、励まし、共に生きる3人の教師の姿が描かれる。

偶然にも全員女性だが、彼女たちは皆美しい。教育に従事することの真の喜びと自らに課せられた責務とを、3人の教師たちはそれぞれの場所、それぞれのやり方で、子どもたちへ示していく。

登場する子どもたちもまた、美しい。
日本の都会の学校には決してないもの…例えばそれは常緑樹の枝葉を敷き詰めたテントの中の教室で薪ストーブで暖をとりながらの授業だったり、揺れる船の上で児童結婚の風習と戦いながらの学ぶであったり、フランス語が通じる子が一人いるかいないかの意思疎通さえ覚束ない教室であったり…。そのような中でも、学ぶことの喜び、先生がいると言うことの嬉しさ、学業から得られるのは決して知識だけではなく、人が人として生きていく上での関係性を育む事へと収斂していく様は、あるいは日本の学校教育の中から失われてしまったものかもしれない。

彼らの生きている環境は過酷だが、それは不幸を意味しない。それぞれの生い立ちの中に誰しも幸せをつかむ術を持っている。教育はそれをいかに引き出すかだと言う事を学んだ気がする。
どの地域も日本とは全く違うが、訪れてみたいと思わせてくれる。どの地域もこの映画を観るまでは知らなかったが、そこに息づく人々も、その生活も眩かった。

子どもたちは皆可愛いのだが、特にブルキナファソのイヴと言う少年の例を挙げたい。
始業当時、「Je m’appelle qua?」と先生の問いにおうむ返しするだけで、質問の意味もわからなかった彼が、サンドリーヌ先生の指導でその聡明さを開花させてゆき、卒業間際には15から1までをすっかりフランス語で言えるようになった。その時の誇らしげな笑顔とは素晴らしい。そしてそんな彼を讃えるサンドリーヌ先生の笑顔も。

ところでフランス語にもいわゆる九九の歌がある事を、この映画を通じて知った。日本と違うのは0の段から始まる事だ。

異文化に触れ、そこに屈託のない感動を覚えさせてくれる、良作だった。