アルジェリアの傷つき声を聞き取ってもらえない女性達が、しなやかに生きようとする姿をダンスに託した作品。
アルジェリアの羊闘を映画に収めておきたかったという監督の意向で、闘羊を戦わせるシーンが出てくるのも見所。
映画の冒頭部は、若い女の子たちのワチャワチャとした日常やダンスのレッスンの様子が映し出され、今一つ物語が進まないなぁ・・・と入り込めずに眺めていたのだが、ヒロインが事件に巻き込まれて声を失ってからは、急にアップテンポに物語が展開し始める。
'90年代の内戦のキズや歪みが癒えないアルジェリア。高い失業率と文化的な抑圧に暴力、先の見えない社会の中で、一番弱い存在である女性達が傷つけられても、その声さえ聞いて貰えない様を聾唖者や失語症のヒロイン達に託しているのだが・・・とにかく観ていて良い事がほとんど起きない。事態はむしろ悪化する。
都合良く正義の味方が現れたり、幸運で救われたりする事も無い。何かが解決する訳でもない。それで物語としてのカタルシスはあるのかと不安になるが、これがあるのだ。
どんな悲劇に見舞われても、たとえ怯んでも・・・誰もが決して諦めない。絶対にろくな事が起きないと予想される事に挑む時にも、希望と笑顔を絶やさないし、日がな一日背中を壁に押し当てている(失業している)男達もユーモアを忘れない(それだけ状況が過酷という事だが)。
だから観ていて悲壮感を感じさせないし、美しくきらめく光と響く音に乗って舞うヒロイン達の魂の自由を感じるのだ。
ヒロインを演じるリナ・クードリは、元々演技力は定評があったが、今作では途中から台詞が無くなり、手話を含めた身体表現だけで見事に演じきる。
しかも、どちらかというと見た目は普通の女の子という感じの女優だったのに、今作ではダンサー役として鍛えた身体はしなやかで、女性らしさを表したダンスは柔らかくも力強く美しい。
こんなに表現力がある女優さんだとは思わなかった。
正直言えば、コンテンポラリーダンスは好きでは無いし、あの振り付けも好みでは無い。それでもクライマックスのダンスを観ていて、胸が高鳴り、目頭が熱く成ったのだから、やっぱり素晴らしかったんだよな・・・。
ヒロイン達に踊り始めると、寄り添って共に舞っている様なカメラワークも見事だった。
美しい映画だな・・・と思った。