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裸足になってのhasisiのレビュー・感想・評価

裸足になって(2022年製作の映画)
3.7
北アフリカ。地中海に面した国、アルジェリア。その首都、アルジェ。
カスパと呼ばれる石の迷路状の市街地が広がっている。
若手のバレーダンサーであるフーリアは母と2人暮らし。
困窮する家計を清掃員として助けているが、盛り場での賭博に手を出してしまう。それが原因で、ダンサー人生の分岐点となる重大なトラブルに遭遇する。

監督・脚本は、ムーニア・メドゥール。
2022年に公開されたドラマ映画です。

【主な登場人物】🏜️🩰
[アリ]追跡者。
[サブリナ]母。
[サミー]友人・サングラス。
[ソニア]親友。
[フーリア]主人公。
[マンスール]友人・髭。

【感想】🩹🦶🏽
メドゥール監督は、1978年生まれ。アルジェリア出身の女性。
フランス系アルジェリア人。
故人である父親がアルジェリアの映画監督だった。母はロシア出身。
10代の時に内戦を経験して、20才前に亡命。フランスでジャーナリズムを学び、
2007年にドキュメンタリーからキャリアを開始。
2019年の『パピチャ 未来へのランウェイ』が、自身初の長編フィクション映画に。

※文章の終わりに「劇中のダンスが何を表現しているのか?」について触れています。⚠️

💃🏽〈序盤〉🦢🐏
アフリカ、フランス語圏のバレリーナ。
スターを夢見る少女の物語。
ただ、監督が書いているので、バレー要素は薄め。
夜遊びに夢中だった若い頃を思い出しながら書いたのだろう、
エピソード自体は、売れてないモデルのプライベートに近い。

もっとおどろおどろしいのかと思えば、明るくて元気。
話を聞いていくと、意外と哲学的でぐるぐる。思考の迷路に入りやすいような印象。
場を明るくしてくれる子の意外な一面。鬱病に近い。

『ブラック・スワン』が好きな人であれば。

💃🏽〈中盤〉🌊🚣🏻‍♀️
リハビリ施設。
障害者が大勢出てくる。
全体的にそうだけど、横のつながり。友達といちゃいちゃしている時間を大事にしている。
楽しいと、辛いが交互にやってきて、1幕と構成がよく似ている。

踊りが主題にある影響だろう、舞台演劇を見せられているかのような演出。
アフリカの強い光を浴びた自然が魅力的で、美しい映像で目の保養に。

軽やかに描いてあるが、どん底からの復活を描いてあるのでテーマ事態は重い。
成功者の壮絶体験のようなルートを辿る。

『Aftersun』が好きな人であれば。

💃🏽〈終盤〉🕯️🍪
いちゃいちゃ好きは、興味がない人からすれば鬱陶しいもの。
踊りガチ勢とカジュアル勢の温度差。
操りとエゴズム。
自分の嫌われる要素を外側から眺めている。
ベテランだけあって、客観的に物事を捉えつつ、それを表現する力も持っている。

1、2幕が嘘のように重い。
国の内情に絡めて、苦しみと正面から向き合ってゆく。

[アルジェリア]🕌
地中海に面している影響で、フランスの植民地時代が長かった。
巨大な領土の8割が砂漠に覆われているため、人口の9割が湾岸地区で暮らしている。
争いの種である石油も出る。
国民のほとんどがイスラム教徒。
地理的な性質上、アラブ人とベルベル人が混じり合っている。

1962年の独立後も社会主義なので、独裁。
ロシアはソ連時代に独立戦争を支援し、いまでも友好関係を維持している。
その後も、1991年から2002年まで、政府軍と複数の反政府軍に分かれて内戦を繰り広げていた。

現在は人口爆発によるインフレに苦しんでいるなど、自由と平和までの道のりが遠い、苦難の国と言えるだろう。
女性たちの悲しみと静かな訴え。厳かな舞が世界に向けて披露される。

【映画を振り返って】🌞🤚🏽
主人公役のリナ・クードリは、ポスターの印象よりずっと幼い印象を受けるが、1992年生まれ。前作につづけて主役を務めている。

90分映画でダンスといちゃいちゃが長く、場面の数も多いので急ぎ足。見応えの点では若干物足りなさが残る。
その分、流行小説のようにサクッと楽しめるし、
癒しや苦しみなど、感情の動きや心の問題に重きが置かれている。
争いが絶えない緊張感のある国が舞台なので、世界観の深みは折り紙つき。

🩼陽キャのアクシデント。
怪我や障害。破壊を扱っているが、鬱々とはしていない。明るくて凛々しいのが特徴的。
ストレスや悲しみ、怒りを自然と表現してしまうのか、テーマとして意図的に偏らせたのかは分からない。

🙍🏽‍♀️お母さんとの距離感が絶妙。
付かず離れず。
人生の先輩として娘を優しく見守ってくれる。

苦労話ではあるが、過度ではなく、より一般に近い。刺激が抑えてある分、広く共感が得られるつくり。
日本だと極論するか、あるいはバッシングを恐れて、この辺の微妙な感じを描いたものが少ないから、貴重な感覚が得られた。

👗抑圧からの解放。
監督は配給会社を見つける努力をしたものの、
政府批判を想起させる内容であるため、アルジェリア国内では公開されていない。

クラシックバレーを政府のメタファーとして利用。
クライマックスで統率のとれたダンスを披露して、「伝統文化への回帰」と説明されても、正直、平和な国から聞くと、しっくりこない。
そもそも、クラッシュ&ビルドの発想は、侵略する側の理屈だよな、と捉えてしまう。

インタビューは監督の願いが多分に含まれるし、
それだけ、ひっ迫した状況が生み出した作品とも言えるだろう。
まるで反政府組織を率いて戦いを挑んでいるような。
彼女たちの戦争は、まだ終わっていないのかもしれない。
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