ぶみ

グランツーリスモのぶみのレビュー・感想・評価

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
2.0
世界一過酷な夢への挑戦。

ニール・ブロムカンプ監督、アーチー・マデクウィ、デヴィッド・ハーバー等の共演による実話をベースとしたドラマ。
ドライビングシミュレーター『グランツーリスモシリーズ』のプレイヤーであるヤン・マーデンボローが、プロのレーシングドライバーになる過程を描く。
主人公となる実在のレーシングドライバー・マーデンボローをマデクウィ、彼の指導を引き受ける元レーサーをハーバー、ゲームプレイヤーをプロのレーシングドライバーに育成するプログラム「GTアカデミー」の創設者の一人をオーランド・ブルーム、マーデンボローの両親をジャイモン・フンスー、ジェリ・ハリウェル=ホーナー、『グランツーリスモシリーズ』の発案者である山内一典を平岳大が演じているほか、ヨシャ・ストラドフスキー、ダニエル・プイグ、トーマス・クレッチマン等が登場。
物語は、ゲームプレイヤーが、いかにしてプロのレーシングドライバーとなっていくかが描かれるという至ってシンプルなものであり、冒頭からホンダ・NSXが登場したため、それだけでテンションはいきなりマックスに。
私は、クルマ好きを自認しておきながら、同シリーズは登場した当時に少し触れたことがある程度なのだが、それまでのエンタテイメント性を重視したカーレースゲームとは一線を画し、慣れないと、カーブがろくに曲がれないという、まさにシミュレーターと呼ぶにふさわしいその内容に面食らったことが昨日のことのように思い出される。
作中では、「GTアカデミー」自体が日産とソニー・コンピュータエンタテインメントの協賛であることから、マーデンボローが乗るクルマがGT-Rといった日産車であるのに始まり、日産を中心に、日本の光景がそこかしこに登場するのだが、得てして外国作品においては、日本に対するトンデモ描写が散見されるところが、本作品では皆無であったのは好印象であるとともに、山内自身がカメオ出演で寿司職人役で登場していたのも見逃せないポイント。
また、マーデンボローが横浜に向かう際の送迎車が、ありがちなトヨタ・ハイエースではなく、日産・キャラバンであったのも、しっかり細部まで作りこまれているなと感じたところ。
そして、肝心の映像に関しては、これはもう文句のつけようがないものであり、物語自体も、サクセスストーリーの王道一直線であり、ザ・映画と言えるもの。
ただ、裏を返せば、例えば、マーデンボローの運転している映像が、シミュレーターとシームレスでオーバーラップしていく描写があるのだが、映像表現としては、このうえなく素晴らしいものである反面、最新のゲーム映像が、実写なのかCGなのかの区別がつかなくなってきているように、そういった表現があると、本作品でも、どこまでが実写で、どこまでがCGなのかがよくわからなくなってしまうため、リアリティの追及という面では逆効果だったように感じた次第。
加えて、映像然り、脚本然り、演出然り、いずれも、1ミリの遊びもない印象であり、前述のように、あまりにも王道過ぎて抑揚がなく、野球のピッチャーで例えるなら、150キロ台のストレートと、140キロ台のスプリットの2種類しかないようなもので、見ていて息抜きできるシーンが殆どなく、常に力が入っている雰囲気が漂っており、ここに、100キロ台前半のチェンジアップやカーブがあったりすると、投球自体に奥行きが出て、楽に抑えられることができるようになるのと同様、本作品でも、もっと味が出るものになったのではなかろうか。
さらに言うならば、本作品は実話ベースというのを最大の売りとしているのだが、何が実話で、何がフィクションなのかわからないのが、実話ベースとしている作品に存在する共通の問題であり、確かにゲームプレイヤーが、レーシングドライバーになっていくという大枠では間違いではない。
ただ、ドキュメンタリーでない限り、一言一句、台詞やシチュエーションを再現するのは、当然のごとく難しいものであるのだが、本作品でも、厳密に当時の状況を再現しているかと言うと、疑問符がつくものが多々あるし、あり得ないオーバーテイク然り、時代考証が完璧ではないこと然り、おかしな点が散見されるのも事実。
もちろん作品としてのクオリティは非常に高く、そこには文句のつけようもない反面、事実関係については、しっかり認識しておきたいところであるし、舞台裏については、どんなに脚色しようと構わないが、誰しもが少し調べれば情報が手に入る現代において、客観的な事実については、少なくとも、忠実に描いて欲しいもの。
もし、それができないのであれば、エンドロールでも良いので、事実はこうでした的なエクスキューズを入れるべきであり、日本語の使い方が間違っていることを承知で敢えて言うならば、これでは、もはや感動ポルノと同様。
映画のお手本のような作風であるものの、間口を広げるために、ゲーム好き、クルマ好きの中間あたりをターゲットとしているせいか、マニア心をくすぐるような描写が少なかったのと、前述のように、真面目過ぎる作風が玉に瑕となってしまっていることから、観終わった後の余韻がアッサリしており、まだまだ伸びしろがあったと思うとともに、実話ベースとした伝記作品というよりも、実話から着想を得たフィクションという方が正解だなと感じた一作。

ぶっ飛ばせ、自分のラインで。
ぶみ

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