kkkのk太郎

グランツーリスモのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

実在のレーサー、ヤン・マッデンボロー(1991-)の半生を実写映画化。
テレビゲーム「グランツーリスモ」の名プレイヤーだった彼が、本物のレーサーとして成長するまでを描いたモータースポーツ映画。

監督/製作は『第9地区』『チャッピー』のニール・ブロムカンプ。

主人公ヤンのトレーナー/メンターであるエンジニア、ジャック・ソルターを演じるのはテレビドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シリーズや『スーサイド・スクワッド』のデヴィッド・ハーバー。
日産のマーケティング担当者にして、ゲーマーを本物のプロレーサーに育てあげるプロジェクト「GTアカデミー」の考案者、ダニー・ムーアを演じるのは『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのオーランド・ブルーム。

シリーズ累計販売本数9000万本!
1997年に1作目が登場して以来、レーシングゲーム愛好家たちに愛され続けている「グランツーリスモ」。
そのゲームを極めすぎた結果、本物のレーサーになっちゃった激レアさんが本作の主人公である。

自分は「グランツーリスモ」をプレイした事がなく、またモータースポーツに関しても全くの無知の為、ヤン・マッデンボローという人物がいることはおろか、「GTアカデミー」というプロジェクトが存在していたことすら知らなかった。
ゲーマーとアスリート、正反対の人種であるように思えるが、プロレーサーだって実車で走れない時はシュミレーターで練習するんだろうし、確かにモータースポーツとレースゲームは親和性が高いのかもしれない。
「ストリートファイター」のプレイヤーをプロの格闘家にするとか、「実況パワフルプロ野球」のプレイヤーをプロ野球選手にするとか、そういうことに比べれば遥かに現実味がある。
とは言っても、車に乗ったことのないズブの素人をレーサーにするというのはやはりどうかしているとしか思えない💦このプロジェクトを立ち上げたダレン・コックス(本作のダニー・ムーアのモデルとなった人物)、そしてそれにGOサインを出した日産とソニーの酔狂ぶりには頭が下がる。

さてさてこの映画、ヤン・マッデンボローの”ゲームよりも奇なり”な半生、GTアカデミーに参加した2011年からル・マンの表彰台に立った2013年までの出来事が描かれています。余談ですがヤンは2016年から2020年までの間は日本を拠点に活動していたらしいので、『2』があるとすれば主な舞台は日本になるのかもしれません😊

「事実を基にしたストーリー」とありましたが、当然劇映画として成立させる為に、事実とは異なる箇所が出てきます。
例えば、映画でのヤンはGTアカデミーの初代チャンピオンという描かれ方をしていますが、実際には第3回のチャンピオン。
また、トレーナーであるジャックは2015年まで彼のエンジニアを務めていたリカルド・ディヴィラ(1945-2020)がモデルだが、リカルドはGTアカデミーには携わっていない。
一番大きな改変は人死を出してしまったクラッシュ事故。映画ではあの事故のトラウマを乗り越えル・マンに挑むという流れになっていましたが、実際にはあの事故は2015年の出来事。ドラマを劇的にするために時系列を捻じ曲げるという力技を行なっているのです。
とまぁこのように、「ゲーマーがプロレーサーになった」という大枠は正しいが、その中身はかなり創作されている。この点は念頭に置いて鑑賞した方が良いかもしれません。

金もコネもチャンスもなく、片田舎で鬱屈とした日々を過ごす青年、ヤン。この「一生俺はここで生きていくしかないのかな…」という実存的危機、これは『スター・ウォーズ』など、映画によくあるテーマでありますが、本作はここに”負け犬たちのワンス・アゲイン”というみんな大好きな熱血要素が付け加えられており、『ロッキー』にも匹敵するような熱い男のドラマが展開されてゆきます。
「ゲームオタクにレースが出来るわけねぇだろうがよ笑笑」と体育会系な人種に後ろ指を指されながら、それでもやるしかねえだろうがよ!と言わんばかりにトレーニングに励むヤンの姿を見れば、こちらのハートも燃えずにはいられない🔥
ただ運転技術を磨くだけでなく、合間合間にランニングや縄跳びなどの肉体トレーニング描写が挟まれるところが良い。主人公が身体を鍛えると、それだけで映画が陽性に傾き、物語の推進力も増して行きますよね♪

ロッキーにはミッキーが、矢吹丈には丹下段平が、幕之内一歩には鴨川会長がいるように、負け犬映画にはメンターとなる名伯楽が必要です。
本作のジャックはまさに絵に描いたような名トレーナー。厳しさと優しさ、強さと弱さ、緊張と緩和を併せ持ったキャラクターであり、彼の存在あったからこそ本作のドラマに深みと面白さが生まれたのでしょう。
過去の挫折から鬱屈とした日々を過ごす彼が、若き才能と出会い再び心に火を灯す。観客の大部分はヤンよりもむしろジャックに感情移入してしまうのではないでしょうか。親近感のある彼の存在は、ある意味でヤンよりも重要なキャラクターだと言えるのかも知れないです。

本作のもう一人の大人代表、ダニーも忘れてはいけません。
本作中、私が一番気に入ったキャラクターはヤンでもジャックでもなくこのダニー😏有能なんだけど、あんまり他人の気持ちとかを慮らない生粋のビジネスマン、かつヤマ師。
何を考えているのかわからない胡散臭さを放ち、面の顔と裏の顔がまるっきり違うのだが決して悪人ではないという意外と複雑なキャラなのだが、オーランド・ブルームはこの曲者を見事に演じ切って見せました。いや彼も、暫く見ない間に素晴らしい役者に成長してるじゃないですか!あの胡乱な笑顔が最高に魅力的✨
このダニー、ヤンやジャックが見事に成長したのに対して、全く成長もしなければ変化もしないというなかなか稀有な存在。割と最後までプロジェクト成功の事しか考えていないという碌でもない人物なのだが、なんかその辺も人間臭くて好感が持てました。意外と素直に人の意見を取り入れるし、実は結局良い人なんですよ笑

デヴィッド・ハーバーとオーランド・ブルーム。若者が主役の映画だが、最も魅力的に映っていたのはこのオヤジ2人。やっぱりオヤジが魅力的だと映画全体の魅力も引き立ちますね♪
青春熱血スポ根映画でありながら、良質なオヤジお仕事映画でもありました。ダニーを主役にしたスピンオフとかも見てみたい!😆

楽しいか楽しくないかで言えば、確かに楽しい映画である。
ただ、ぶっちゃけそこまでよく出来ていたとは思わない。
正直言うと、ヤンが東京に来たあたりで一度大きな退屈さに襲われてしまった。

というのも、本作のレース描写って一本調子なんですよね。
GTアカデミー参加をかけたゲーム大会、GTアカデミーの決勝、プロライセンスを賭けた一戦、ル・マン24耐と、作中では大一番が4つあるわけなんだけど、そのいずれもがゴール前での競り合いによる決着。「一体どっちが勝ったんだ!?」という僅差の勝負は確かに盛り上がるが、それはここぞと言う時の一回限りだから有効なのであって、毎回毎回やられるとアホくさくなってきてしまう。
それとライバルの薄さも気になるところ。嫌味な成金キャラがライバルなんだけど、テンプレのような悪役で面白みに欠ける。しかも毎回毎回ライバルはこいつ。レーサーってそんなに人材不足なのか💦
テレビゲームのように順位や走るラインが画面に表示されるというのはなかなかにフレッシュで心躍ったし、必殺のテクニックで敵を翻弄したりするのは漫画みたいで面白かったので、もう少しライバルやレース展開のバリエーションにも気を遣って欲しかった。

なぜこんなに同じようなレースを繰り返してしまうのか。それはもう単純で、描かれるレースが多すぎるから。
ヤン・マッデンボローの数奇な人生を描くにあたり、2011年から2013年までにマトを絞ったわけだが、正直それでもイベントが多すぎる。
”グランツーリスモのトッププレイヤーが本物のプロレーサーになる”という、これだけでも十分に映画化に値する。
しかし本作ではさらに「ル・マンで表彰台に上る」というイベントまで描こうとしてしまった。そしてそのために、重大なクラッシュ事故という本来はそこにないはずのイベントまでプラスすることになってしまった。
こなすべきイベントが増えていった結果、一つ一つのイベントが薄味になってしまい、結局どこがクライマックスなのかよくわからない物語になってしまっているように思う。「勝ったぞぉ!!ウォーーッ」という雄叫びが何箇所かあったけどさ、それも普通は一回だけだよね😅

それともう一つ、個人的にこの作品にノレなかったのは、あまりにも宣伝が目につきすぎたから。
”ステマ”という言葉が世間を賑わせたこともあったが、本作はそれとは真逆。超正々堂々とプロダクトプレイスメントが行われている。

「グランツーリスモ!どうだあっっ!!」
「日産GT-R!どうだあっっ!!」
「SONYのウォークマン!どうだあっっ!!」

…ねぇ。どうだぁっ!と見せつけられてもねぇ。そうか、としか思わないよねぇ。
確かに本作は「グランツーリスモ」というテレビゲームが軸にある映画なわけで、発売元であるSONYや、GTアカデミーのスポンサーである日産が前面に押し出されるのは当然っちゃ当然。
なんだけど、あまりにもそれが露骨過ぎるというか何というか…。ジャックへのプレゼントであるウォークマンがデカデカとスクリーンに映し出された時は、もうそのあまりのSONYの存在感に笑ってしまった。いや、わかる。わかるんだけどさぁ!もう少し映画には侘び寂びが欲しいじゃないっすか。堂々と親会社の一押し商品を見せつけられると「うへぇ…」となってしまう。
1番やりすぎだと思ったのは冒頭とエンドロール。「グランツーリスモ」の宣伝で始まり宣伝で終わるという、宣伝のサンドイッチ映画。
このせいで、結局俺が観たのは開発元であるポリフォニー・デジタルの、長い長いCMだったんじゃあないかという疑念に苛まれることになってしまった。

という感じで、確かに熱血スポ根負け犬映画として楽しめたのだが、所々気になるところも多かった。
仮にGTアカデミーにだけ着目していたら、日陰者たちによるプロジェクトものという『ライトスタッフ』(1983)や『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987)のような、タイトな青春組織内映画になっていたかも知れない。そっちの方が観たかったかも。
まぁでも、明朗快活な娯楽映画という感じで万人にお勧めできる作品であることは間違いない。特にモータースポーツに興味関心がある人なら満足できること請け合いです♪

※超余談なんだけど、ル・マンの最中ヤンが自分の部屋でゲームをしていた時のことをフラッシュバックするじゃないですか。
あそこで、実はこれは全部ゲーマーの妄想で、父親からの小言で現実に戻る、みたいな映画なんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてしまった。
もしそうだったら、これまでの熱血ストーリーが全部吹っ飛ぶ、死ぬほど暗い映画として後世まで悪名を残していただろう😰いやー、そうならなくて良かった〜…。
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