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グランツーリスモの06のレビュー・感想・評価

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
4.3
ゲーマーからレーサーへ、あの狭い部屋から世界へと。多くの人に夢を与える物語。

プレステのプロパガンダ映画かと思うくらい、はじめてスクリーンで、あんなに何度もプレステのマークを見た。この映画を期にグランツーリスモを始める若者達も沢山いるだろう。または昔遊んでいたユーザーも戻って来るかも。音の気持ちよさや映像の快感は「トップガン・マーヴェリック」と同じだが、影響力の強さはこちらの方が上回っていそうだ。
元々この監督は「第9地区」(CGを駆使したSF映画)の頃から好きなのだが、その得意技を駆使して素晴らしいヒーロージャーニーを観せてくれた。

友人は「モータースポーツやってるからこそ、入り込めない」というこの映画を評していた。モータースポーツを愛する人間が好きな排気音はそこじゃない!と細部に引っかかるんだそうだ。
その意見も何と無く頷ける。全体的にマス向けにつくったのか、体感的な泥臭さは匂い立たない。その辺は「フォードVSフェラーリ」の方が真摯に車に向き合っていたと思う。
だがそのお陰で、グランツーリスモにもカーレースにも疎い人間が見たかった、CGとレースの融合を一番良いタイミングで実演してくれた。冒頭の警察からの逃走でテンションを上げ、ラストのル・マンの最終レーン。両手を握り神に祈る気持ちで見た。

映画館を出て、「エアボーン・クラッシュ ニスモ」と検索したら実際の事故の動画が出てくる。今までならそれはただの”すごい怖そうな動画”だったのだが、映画を観た後はレーサーの恐怖と苦痛を想像出来てしまいまともには見れない。それもまた、大切な映画の魔力だ。


またストーリーも抜群だ。
「ゲームばっかりやってないで、将来を真剣に考えろ」という主人公視点と「ゲーマーを本物のレーサーにする」という営業マンの馬鹿みたいに不可能に聞こえるプレゼンから話はスタートする。思えば、オーランド・ブルームの日産へのプレゼンシーンから我々はぐっと映画に引き込まれたのではないか?それが叶うかは、まだこの時点では未知数だ。
そして試練が幾つも与えられる。ゲームで勝ち抜く。メンバー選抜を勝ち抜く。レースで勝ち抜く。困難のハードルがどんどん上がっていく。たまにスパルタ師匠と、利己的な営業マンの妨害が入るのもナイススパイスだ。
そして舞台はル・マンまでたどり着く。
今思い返せば、完璧な筋立てだった。これがほぼ現実ということに唸ってしまう。


そして役者が名優ばかり!
父親役のジャイモン・フンスーがホントにいい味を出してる。どっかで観たことが……と思ってたら「ブラッド・ダイヤモンド」の人だ。そりゃ繊細な演技に長けているのも当たり前だった。泣く姿が見事過ぎる。
師匠のデヴィッド・ハーバーはもうストレンジャー・シングスで4シーズン程顔を見続けているので今更だが、スクリーンで観ればこんなに演技が上手い役者だったのかと驚く。そして何よりもオーランド・ブルーム!他は役者の顔が浮かぶが、オーランド・ブルームだけは40年間叩き上げの営業マンです、みたいな顔をしている。役者が役と同化した。金髪エルフの面影どこいった??ってくらい胡散臭く、レゴラスへの幻想を返してほしい。新宿の思い出横丁で飲む姿はマジでただの男前な来日ビジネスマンだった。
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