シシオリシンシ

グランツーリスモのシシオリシンシのレビュー・感想・評価

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
4.0
実話を元にしたモータースポーツのサクセスストーリー。
映画としては実に王道な作りで余計な寄り道をせず主人公の成功と挫折、成長と再起、そして栄冠をつかむまでの過程をてらいなくエンタメチックに描いている。

実車とCGの使い分けも違和感なく融和しており実際のレースの臨場感とゲーム的演出をバランス良く配した映像は一見の価値あり。

登場人物の配置も分かりやすく、主人公であるゲーマーのヤン・マーデンボローと彼を指導する元レーサーのジャック・ソルターとの師弟コンビが話の主軸を担い、バディムービーとしての熱い展開が担保されている。特にジャック役のデヴィット・ハーバーは今作一のハマリ役で、ジャックが元レーサーとしてヤンにレーサーの美学を説くシーンは名演と呼ぶにふさわしいほどの説得力だった。

2時間15分というわりと長尺な作品であるがテンポ良く話が進み、カットや編集の仕方もかなりクールなので長さを感じさせないくらい疲れない作りになっていたのは良かった。この辺は作り手のセンスの良さを感じられる。

と、映画としてはかなりソツなく面白い作品になっているのだが、一点だけモヤモヤしたところがある。
それはヤンが起こした死亡事故の脚色についてだ。
映画では事故はヤンの挫折と再起のターニングポイントとして描かれており、この事故を乗り越えてクライマックスのル・マン耐久レースに挑むというドラマチックな流れだが、実際の時系列はル・マンのあとに事故を起こしたというふうになっている。
映画としての面白さやドラマとして自然に熱くなる展開にするため事故の時系列をこのようにしたのは理解できる反面、亡くなった人がいるという事実がエンタメ的に都合良く改変されているとも思えてしまい、私の倫理観的にモヤモヤする要素になってしまった。
こういったセンシティブな要素を持つ実話をいかにエンタメに落とし込むか、面白い映画なだけにこの史実の改変には慎重であるべきだったと思う次第。
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