回想シーンでご飯3杯いける

グランツーリスモの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
3.5
「グランツーリスモ」ってレースゲームというより、自ら「カーライフ・シュミレーター」と掲げている事からも分かるように、シュミレーター志向のソフトなので、セガ系の派手なレースゲームが好きだった僕からすると、正直あまり面白く思えなくて、オタクやカーマニアが楽しむ物という印象が強かった。レースの順位より、車のチューニングやコースのライン取りがキモになるゲームなのだ。

だからこそ、本作で登場するシム・ドライバーと揶揄を込めて呼ばれるユーザーを生んだのだろうし(シムはsimulationを語源とし、先にヒットし多くのマニアを生んだゲーム、シムシティとの類似性を含んだ意味合いを含んだ略語だと思われる)、それを逆転の発想でゲームの長所として捉え、実際のレースに出場するドライバーを育成するプロジェクト「GTアカデミー」を発案した日産は凄かったと思う。

そんな特殊なプロジェクトを実話ベースで映像化した本作の監督を務めるのは、南アフリカ出身のニール・ブロンカンプ。かつて「第9地区」や「チャッピー」といった異色のSFで脚光を浴びた彼が、どのような作品に仕上げるのか。

冒頭はゲーム画面から実際の世界に広がるような映像編集が多用される。そこから、ゲーム好きの少年と体育会系の父親との確執に移行する等、ストーリー展開も通常のレース映画とは異なる。

中盤以降は逆に実際のサーキットの映像に、コース取りやドライバー名のテロップ挿入等、ゲーム画面っぽいエフェクトを盛り込んでいく。それらの工夫があって、近年では映画ジャンル的には下火になっていたレース映画界に新しい風を吹き込む事に成功していると思う。

本作は実話ベースの作品であるが、そこが面白みであると同時に危うさでもある。「これが実話というのだから凄い」という評価が多いが、「これ」とは何を指すのかという点は、確認しておいた方が良いのではないだろうか。実在しない人物や事象の配置、時系列改編による印象操作等は、当たり前のように取り入れられているだろう。

主人公がレース前に聞く音楽がケニーGとエンヤっていうのが面白い。その微妙過ぎる音楽の好みが天才味を醸し出している。