きゅうりぼーい

ママボーイのきゅうりぼーいのレビュー・感想・評価

ママボーイ(2022年製作の映画)
3.9
⁡自意識が邪魔して人に何かをオススメすることがなかなか出来ない自分だけど、おすすめの台湾映画を聞かれたらこう答えようと思ってる作品の一つが、本作の監督でもあるアービン・チェンの『台北の朝、僕は恋をする/一頁台北』。


ゆるくて、笑えて、ちょっと素敵。
何も気負わずに見れて、見終えた後の充足感と心地よさは本作も同じ。

違いといえば
『台北の朝〜』は台北の街を舞台に繰り広げられる男女の(恋の終わりから)〝恋が始まる〟までの物語であったのに対し、
『ママボーイ』が描いたのは〝恋をしている期間〟(とその終わり)を描いた物語であったこと。

それは映像にも表れている。
まるで台北の街自体が主人公であるかのような引きの画が特徴的であった前者と、他者への想いの強さとその距離感を表すように登場人物に寄っていく画が特徴的であった後者の違いは見ていてとても面白かった。

本作は内気な29歳の青年シャオホンがとあるきっかけで出会った歳上女性ララへ恋をしていくその恋愛模様を描いた物語であり、シャオホンとその母、ララとその息子という対照的な関係性にある2組の親子を描いた物語でもある。
その男女と親子の物語が重なることで、〝恋〟と〝愛〟両方の視点から人のもつ想いとその距離感、そして経験と成長の物語を描いていくのもとても良かった。


何事も経験とはよく言ったもの。
想っているだけでは何も変わらないし、想いが強ければその人の為になるとは限らない。

だからこそ一歩、
前に踏み出す。
後ろへ引いて距離を取る。
横にズレて違う道を進む。

その〝一歩〟によって起こる出来事が必ずしもハッピーなものとは限らない。
それでもその一歩が生み出した経験は確かな糧となって自身を成長に導くだろう。
そんなことを思わせるラストシーンに「うんうん」と笑みを浮かべ、心の中で小さな拍手をし映画館を後にした。


日本でも大人気の歌手であり女優のビビアン・スーと、演者だけでなく最近では監督業も務めるクー・チェンドンが主演の素敵な恋と成長の物語。

都市部の片隅に生きる小さき者たちの
なんてことはない、小さな物語。
壮大に描くわけではなく、美しく描く。
アーヴィン・チェン監督がかける魔法、彼の作品のもつ魅力を知れた気がして、今後の作品も楽しみになった。
きゅうりぼーい

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