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瞳をとじてののわのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.1
「マルメロの陽光」公開時に劇場に足を運ばなかったことを後悔し続けていた自分にビクトル•エリセ監督作品の新作を劇場で観る機会が再び訪れてくれた、それがまず何より嬉しかった。
そして、そんな30年越しの期待に何ら裏切ることなく本作は応えてくれた。

記憶と魂の境い目とは何なのか、自分が何者であるかを紐解くものとして音楽や映画が描かれる。それは記録媒体という装置としてではなく奥底にあるものを呼び起こすものとして。
ドライヤーの「奇跡」で映画の奇跡は終わっていると告げさせておきながら、どこまでも映画にある奇跡という決して言葉にならないものを追い求め描こうとし続け30年以上も形を成し得ずやっとここに結実したという監督の愛が総てのカットに満ちている。

映画を観るとき映画もまたこちらを観ている、そんな風にひたすらに問いかけられる。我々の人生の旅を。様々な映画と向き合い続け老いを迎えるに至った人であればあるほどにここに内包される重みが胸に刺さるのではないだろうか。
そして、そっと目を閉じた時に心に何がそこに映るのか、そこを問い正される。

今すぐにまた観賞し細部を観直したいという気持ちにもなるが、ここから更に年齢を重ね、5年後10年後にあらためてまた映画館で再会したいその時にこの作品がどう映るのかを夢想しながら時を過ごして、本作はそう思わせてくれる。きっと待っていてくれると。

ビクトル•エリセという監督は1本の映画を撮ることの重みを誰よりも知ると言って過言ではない監督だろう。故に本作に詰め込まれた想いの密度は素晴らしい。だが、その素晴らしさ故に、これが遺作になっても悔いは無いのだろうなと感じさせられたその完成度に哀しみが募った。
案外、さらっともう1本ぐらい撮ってくれないかなぁ。僕はそんな奇跡を信じたい。


余り細かい箇所を語る気にはならないのだが、ラストの映画館に集った人々がチェスの駒と符合しているという展開、その構成には感嘆した。
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