しの

瞳をとじてのしののレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
2.9
老年監督が自身の人生を夢のような記憶として映画のなかに現出させるというのは、それ自体はむしろ凡庸な営みなので、こちらとしてはその監督ならではの切実さの刻印に期待するんだけど、本作は監督のキャリアという映画外の情報を抜きにそこが伝わるかというと、ちょっと厳しい気がした。

未完成の映画というのが、人生の「あの時」という断片的な記憶のメタファーだとすると、そこから切断された自分に同一性はあるのか? あるいはむしろ同一性を保とうとすることが不自由にするのか? という問いそれ自体は興味深い。そのオブセッションを示すように2時間弱の前段がある。

この、ほぼ人物の切り返しと過去への執着だけで繋がれていく長い長い前段があるからこそ、ラストが効いてくるというのはある。つまり映画という記録、それも現実の似姿の記録との切り返し。それは切断と接続がないまぜになる走馬灯のようでもあるし、そのないまぜを受容する境地でもある。

しかし流石にあの前段に2時間弱もかけるのはどうなのか。そこにそれ相応の目を引くものがあれば良いけど、(会話の切り返しにややスリリングさを感じはするものの)やはり冗長なパートが多いし、悪い意味で分かりやすく、あまり切実さや感慨を感じない。自分は興味が持てない作品だった。
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