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瞳をとじてのCのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
3.8
自伝とも言っていいくらい、ビクトル・エリセの映画との距離と、人生への回顧が表れていた。

前半は老いやこれまでの人生に対する諦念が中心で、映画は側に置かれている。どこかへ戻りたいと思わなくて良い場所を作れなかった、写真に写っている若い頃の自分とはもう繋がっていない、と語るシーンに分かる通り、郷愁というほど良い感情は存在しない。登場人物の独白的な演出で進んでいき、トーンも淡々としていることから、『ミツバチ〜』『エル・スール』とはやろうとしていることがかなり異なってることがわかる。正直に言うと鑑賞中はかなり冗長に感じたが、自分の人生を振り返りながら語る時、印象的な表現を入れ込むのは美化しすぎてるというか、老年の作家がおいそれとやるようなことでもないのかなとも思えて、これで正解な気もする。

エンディングにかけて映画に対する信念(執念?)めいたものが再燃してからのシーンは、何年も時が経ってもう一度映画を撮ったビクトル・エリセ自身を見ているようですごくよかった。人を呼び寄せて、客席の配置を整えてまで、「映画の奇跡」を信じてフリオの顔を覗き込む姿は、初めて撮影した映画を観客に見せた時の期待と不安が入り混じった感情を想像した。

ノスタルジーって言ってしまうとシンプルでエモーショナルな型に当てはめちゃうから抵抗がある。何十年も前に仲間と作った映画を観るということには、色んな感情を想起させる力があるし、記憶が戻るかもと思ってしまっても不思議じゃない。それが成功するかどうかは分からないけど。
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