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瞳をとじてのICHIのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
3.9
まさか観られるとは思っていなかったビクトルエリスの新作。襟を正すような思いで見始めたが、なんかかったるくて,眠気に襲われ始める。こんな馬鹿な、どうしたエリスと思っていたら、「リオブラボー」の「ライフルと愛馬」を歌うシーンから俄然面白くなり、ラストまで画面に釘付けになった。彼の映画に対する思いを衒いもなく描く数々のシーンが感動的で、歌は勿論、「夜の人々」のポスターやドライヤーの「奇跡」への言及や映画館やフィルムの缶ケース、画面を見つめる人々の眼差し、映画フィルムを運ぶ相棒の存在感,などなど、映画館で彼の映画を観ながら彼と映画への思いを共有できる幸福感を味わう。そして相も変わらずショットと光の繊細さ、素晴らしさ。特に漆喰を塗る2人のショットとその後の食事シーンや2人を背後から捉えた海岸のサミュエルフラーの「最前線物語」のようなショット、記憶を失った役者が暮らす部屋の前のベンチに2人で座るショットの美しさ。アナに「私はアナ」と再び言わせてしまうシーンはそれはいいのかそれでと思いながらもその光とショットの繊細さにやっぱり感動する。しかし老境に入ったエリセが単に自分の過去作品や映画の思い出に浸った映画で終わっているのではなく、トマトを育てたり釣りをしたり古本を買ったりそんな生活にヴェンダースの「パーフェクトデイズ」のような矜持を感じたりもする。ラストに流れる映画が安っぽいのが惜しまれるが、心に沁みる作品だった。
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