ぶみ

湖の女たちのぶみのレビュー・感想・評価

湖の女たち(2023年製作の映画)
2.0
人は罪を犯し続ける。
人は人を愛し続ける。

吉田修一が上梓した同名小説を、大森立嗣監督、脚本、福士蒼汰、松本まりか主演により映像化したドラマ。
介護施設で起きた殺人事件の関係者等の姿を描く。
原作は未読。
主人公となる事件を追う刑事・濱中圭介を福士、濱中とともに事件を追う先輩刑事・伊佐美佑を浅野忠信、事件が起きた介護施設の職員・豊田佳代を松本、事件の被害者の過去を探る週刊誌の記者・池田由季を福地桃子が演じているほか、財前直見、三田佳子、近藤芳正、平田満、根岸季衣等が登場。
物語は、100歳の入所者が介護施設で殺されたことから事件を捜査する刑事である濱中と、施設職員である豊田の姿が中心としてスタートするのだが、同時に事件を発端として、もう一つの薬害事件が浮かび上がってくることとなり、殺人と薬害事件の二つが同時進行という展開となるため、ここだけを考えると濃密なミステリやサスペンスを想像させるもの。
しかし、本作品の真髄はそこではなく、タイトルにもなっているとおり、二つの事件に関わる複数の女性の群像劇という体を成しているため、事件の真相に迫るような謎解きを期待してしまうと拍子抜けしてしまうような内容になっていたところ。
ただ、本作品の問題はここからで、前述の施設での殺人事件や薬害事件を筆頭に、政府の圧力や差別、はたまた人体実験と様々な重苦しいテーマが盛り込まれているものの、それぞれのエピソードを描き切るには尺が足りないことから、そこを補完するために人間関係や状況を登場人物が台詞くさい台詞で全て説明してくれるというのは、見方によってはありがたい部分なのだが、その結果、人物像の掘り下げが全くできていないという致命的な欠陥を露呈。
その筆頭が濱中と豊田の関係性であり、ここに多くの時間を割くくらいなら、他に描くべきことが山ほどあったのではなかろうか。
加えて、警察の時代錯誤な取調べや、薬害事件での上からの圧力等々、今時そんなことあるかと思うような展開の連続であったため、そもそも原作が古いのかと思いきや、2018年に連載開始されていたようで、そんなに古い作品ではなかったことも驚きの一つ。
クルマ好きの視点からすると、豊田や濱中が乗るダイハツ・ミライースやスバル・レガシィのツーリングワゴンを筆頭に、トヨタ・クラウンやパッソ、三菱・ミニキャブ、スズキ・スイフト等が登場するのだが、いずれも最新モデルが皆無であったため、先ほどの時代錯誤なエピソード同様、原作の時代設定そのものが一昔前なのかもと感じると同時に、もはやレア車とも言えるいすゞのビッグホーンが登場していたのは見逃せないポイント。
また、クルマのみならず、チョイ役でも北香那や呉城久美、穂志もえかといった中堅どころが登場していたため、か細い声で喋る福地が悪いとは言わないが、記者という役を考えると、適任は他キャストの中にいたのではとも感じてしまった次第。
北欧サスペンスを彷彿とさせる陰鬱な空気感は良かったものの、湖、ひいてはそれが琵琶湖であった必要性を感じることなく、前述のように、全てが上っ面だけをなぞるような展開の連続であったため、一見すると重いテーマを扱った社会派作品かと思いきや、伝えたいであろうことが全く響くことなく、社会派作品を装った中身の薄い上澄み液のようなドラマでしかなかったとともに、結局観終わって記憶に残ったのは、ビッグホーンだけだったという謎だらけな迷作。

故障したの、人間なんよ。
ぶみ

ぶみ