すずす

惜春鳥のすずすのネタバレレビュー・内容・結末

惜春鳥(1959年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

数年ぶりに鑑賞中に鳥肌。

会津若松の5人の同級生たちの、切なく哀しい青春の終わり。恋愛よりも何よりも友情を尊いと考えていた5人だった筈が、一人の裏切りで崩れていく…

ゲイ映画とも呼ばれる木下恵介監督の裏の代表作。複雑なアンサンブルドラマが見事に集結していく作劇の流れが圧巻です。

その作りはトッド・ヘインズや橋口亮輔の様な濃密な愛憎劇を50年代に産み出していた事には驚く他ありません。

シネスコの画面に、磐梯山を背後に走る長い車列の電車から始まります。

以下は物語。

会津若松行きの電車内。
英太郎(佐田啓二)が東京の大学から帰省する岩垣(川津祐介)に声をかける。岩垣の友人の叔父・英太郎はトラブルを抱え、岩垣も心穏やかではない感じ。

岩垣は旅館の息子の峯村(小坂一也)の下へ転がり込む。その夜、旅館の部屋。漆器職人でビッコの馬杉(山本豊三)、母がナイトクラブ「サロンX」を経営する英太郎の甥・牧田(津川雅彦)、そして、遅れて工場労働者の手代木(石濱朗)が集まり、昔、共に白虎隊の舞を待った5人は旧交を暖める。
岩垣は大学の学費を出してくれた鬼塚家の女に手をつけ、揉めているが、旧友の再会で盛り上がる。芸者みどり(有馬稲子)が来て、白虎隊の剣の舞を舞う。みどりは英太郎と駆け落ちして、連れ戻された身だった。
牧田の家では、みどりと別れさせられ意気消沈した叔父さんが寝込んでいる。牧田の母は冷たいが、牧田は叔父さんにみどりと再び逢える様に取り繕おうとしている。

旅館では、岩垣が峯村に金の無心をする。友人の頼みに、金を工面しようと、峯村は家財を質入れまでする。更に、岩垣は馬杉にカメラを託し、質入を依頼する。
牧田の母と質屋の妾として生まれたのが牧田だった。牧田の恋人は質屋の娘・蓉子で、2人の母は当然犬猿の仲。そんな蓉子に縁談が持ち上がり、お相手は手代木だった。工場労働者の手代木は組合運動に励んでいるが、元は氏族だった。手代木は牧田を呼び出し、如何すべきかを問うと、牧田は好きにしろと云うしかなかった。
見合いの先で蓉子は手代木を放ったらかして逃げ帰るが、手代木は結婚承諾の返事をする。

警察から旅館に連絡があり、岩垣は詐欺容疑で追われていた。事実を知っても峯村と手代木は岩垣を逃がそうとするが、岩垣へ峯村の父の形見の時計も盗もうとしていた。涙する峯村、構わず駅へ向かう岩垣。
激昂した手代木は警察へ通報する。

峯村は牧田に電話して、駅へ向かい岩垣を守る様に告げる。しかし機を逸にして、牧田の叔父の英太郎と芸者みどりが心中したとの通報も飛び込んでくる入。
駅に向かう警察車両。阻止しようと急ぐビッコの馬杉と牧田だが、岩垣は捕まってしまう。
手代木の通報を聞いて激怒して馬杉が、決闘する為、白虎隊の奮戦の地に手代木を呼び出す。集まった四人は喧嘩の果てに、自分たちの青春の終わりを痛感するのだった-------

友人を裏切る羽目になる複雑な役の石濱朗も、彼と対立する好青年の津川、そして常に仏頂面の川津など、若い俳優がイキイキと活写されている。

軸になる7人、つまり5人の同級生と心中する2人は純粋の塊だが、反対にそれ以外の親たち全てを俗物の塊として描く事で、ドラマは見事に純粋な結晶体として昇華していく。

悲劇の少年・白虎隊の実話を背景に、昭和の青年たちの青春の終わりを重ね、逃れられない大人への階段に抗うピュアな心を描いた傑作悲劇。

剣の舞を舞う少年の姿には、三島由紀夫様な脆く危うい世界が重なり、個人的には、木下恵介監督のNo.1として推したい一本です。
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