ぶみ

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。のぶみのレビュー・感想・評価

3.5
君のために、生きたい。
 あなたと一緒に、生きたい。

汐見夏衛が上梓した同名小説を、成田洋一監督、福原遥、水上恒司主演により映像化したドラマ。
突然1945年の日本にタイムスリップした女子高生と、そこで出会った特攻隊員等の姿を描く。
原作は未読。
主人公となる高校生・百合を福原、百合の母親を中嶋朋子、特攻隊員・彰を水上、石丸を伊藤健太郎、板倉を嶋﨑斗亜、寺岡を上川周作、加藤を小野塚勇人が演じているほか、出口夏希、松坂慶子、津田寛治等が登場。
物語は、親や学校に対して日々不満が募る百合が、突如1945年6月にタイムスリップするという冒頭でスタートするのだが、そのSF要素に関しては、特段言及されることなく進行していくことと、大半が1945年当時のシーンに費やされており、現代パートがなくとも十分作品が成立しているため、SFが苦手な場合でも、すんなり入り込めるものとなっている。
そして、百合と特攻隊員である彰が徐々に惹かれあっていく姿が中心となって展開していくが、その様子は、王道一直線であり、非常に安心して観ていられる内容。
タイムスリップを扱うような作品だと、当時の時代感の再現性が低かったり、CGやVFXのチープさが目立ってしまうことが往々にしてあるのだが、本作品はロードムービー的な要素はなく、良い意味でスケール感が小さいことから、当時の雰囲気はまずまず伝わってくるものであるとともに、中盤にある空襲のシーンの臨場感は、思わず頭を覆いたくなるほどであり、期待以上と言っては失礼ながら、思いのほか良かったところ。
反面、敗戦が近い大戦末期は、様々な物資が不足していたであろうことが想像されるのだが、街並みが綺麗であり、特に暖簾や看板といった類のものが新品のようにピカピカであったため、もう少し、汚れや古ぼけた雰囲気があっても良かったのではなかろうか。
また、半袖シャツにネクタイ、スカートに黒ソックスという洋風な出で立ちの女性があの時代にいたら、それだけで非国民として大騒ぎになりそうなところであり、百合を発見した彰を筆頭に、皆がすんなり彼女を受け入れていたのが最大の違和感なのだが、そこをツッコんでいたら話が進まないので、スルーせざるを得ない。
また、ここ最近、登場シーンは少ない脇役ながら、確かな存在感を見せることが多い津田が、本作品でも戦争に反対する言動をした百合を叱責する警官役で登場し、当時の巷の空気を如実に表した存在として抜群の印象を放っていたことと、特攻隊員のムードメーカーである石丸を演じた伊藤の演技は、やはり良いなあと感じた次第。
前述のようなツッコミどころはあれど、戦争の愚かさ、無意味さを若い世代に伝えるには十分魅力的な素材やキャストを揃えており、何より特攻という国のために命を懸けるという考え方が、たかだか70数年前の日本でまかり通っていたことを思うと、良い意味で平和ボケするくらいがちょうど良いのではと感じるとともに、本作品のロケ地であり、満開の百合が印象的な静岡県の「可睡ゆりの園」に、数年前、激動の時代を生き抜いてきた妻の亡き祖母を連れて行ったことを思い出した一作。

あの警官をあんな風にした、何かが悪いんだ。
ぶみ

ぶみ