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あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。のNのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

終わってから何も言葉が出てこなくて、とにかく後半はやるせなくて、苦しくてしょうがなくて涙が止まらなかった。「特攻隊を見送る側」にフォーカスした映画は初めて観たかもしれない。

彰は自分の気持ちを全く話さないし表情にも出さなくて、それが当時の日本男性の姿だと断言してはいけないけれど、そうせざるを得ない環境だとしか言いようがない。特攻隊員に志願するような人だから尚更。でも第三者から見れば、百合に向ける眼差しは特別で、愛おしいと思っているなんて明確に分かるからこそ「特攻に行かないで」と言われてもその気持ちは1ミリたりとも揺るがないところがとにかく苦しい。自分が信じていることが正しくて、それが彼にとっての正義であって、それは愛する人がどんなに訴えても変わることのない事実なのが辛い。彰は自分の信念が変わらないからこそ、最後まで直接百合に想いを伝えられない苦しさを持ちながら飛んだんだろうなと思う。でもやっぱり百合からすれば、あなたの声で聞きたかった、なんで言ってくれなかったの、と胸が引きちぎられるような気持ちになる気がする。
彰は日本が負けたら残虐な未来が待っていると本気で信じていて、百合のいう「日本は負ける」なんてもってのほかで、特攻隊員含め多くの軍人さんたちは未来の日本のために自分の信念を貫こうとしたんだという事実に改めて気付かされる。「お国のために」ではなく「未来の(日本を担う人たちが幸せでいる)ために」というのは今まで私が観てきた戦争映画ではあまり直接的に表現されていなかったように思う。

あと、お墓参りのシーンでの鶴さんの娘家族に対しての気持ちがまさにそうなんだけれど、「家族みんなで逝けたからよかった」とかって死ぬことを正当化していて、もちろん正当化しないと心がもたないからだとはいえとても悲しい世界だと思った。毎日のように、息子のように可愛がってきた子達が特攻に行くのに対して「おめでとう、ご武運を」と言って送り出す鶴さんの心情が計り知れない。
百合が発する特攻や戦争に反対する言葉の数々はあの時代の人達にとってはあり得ないことだけれど、でもその言葉に込められている思いは真実で、歴史を知っていながらも置かれている環境に動じずまっすぐ伝えられる百合は強い。でも、一方で当時の彰たちが抱いていた・信じていたことはその時代の人たちが持っていたひとつの真実でもあるからこそ、生きている環境が人の思想にどれだけ大きな影響を与えるのか、その対比をうまく表現していた。彰の教師になりたかったという想いや、未来の日本に対する思いを聞いて今私たちはそこまで視野を広く持って生きられているのだろうかと思う。

エンドロールで流れる『想臨』の一言一言が彰さんの気持ちを体現していて涙なしには観られない。総じて、こちら側に彰さんが何を考えているかを想像させるような場面が多いからこそ彼の想いの重さや尊さを考えさせられる。「ごはんを食べよう」なんて当たり前の言葉が歌詞で使われることなんてなかなかないと思うけれど、この言葉が問いかけてくるメッセージが強すぎる。

そして伊藤健太郎ってすごい役者さんだなと心から思った。
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