かじドゥンドゥン

ほつれるのかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
3.5
主人公ワタコは、夫フミノリが前妻との間の子を週一回面倒みていることには目をつむるものの、そのことにかこつけて前妻とつながっていることをひそかに我慢できずにいて、夫婦の関係はすでに冷め切っている。そして、親友の紹介で知り合った既婚男性ナオキと不倫関係を結んで、それを唯一の心の拠り所としている。夫はどうにか夫婦関係を修復しようと、あれこれ提案するものの、ワタコは相手にしない。

しかし或る日、ワタコとナオキが秘密裡にグランピングに行った帰り、ナオキが交通事故で死亡する。その現場では、通報をせず、告別式も欠席して、二人の関係を隠ぺいしようとしたワタコだが、すぐにいたたまれなくなって、山梨にあるナオキの墓に参り、彼の父と対面し、さらにはなくしてしまった思い出のペアリングを探し回るなどしているうちに、二人の関係が夫フミノリに露顕する。フミノリは、それでもなおどうにか夫婦関係を維持しようと提案するが、ワタコはそれを拒み、荷物をまとめて出ていく。(完)

フミノリの嫌みったらしい物言いを聞くと、ワタコに同情し、不倫した彼女の肩も持ちたくはなるが、そもそもフミノリとワタコの関係も不倫から出発している。誰が悪いという話にはどうも落ち着きそうにない。むしろ、つまみ食い(不倫)のうちは寛容でいられてお互いうまくいったのに、いざ独り占め(結婚)すると〈ほつれ〉が生じて何もうまくいかなくなるという、人間の業を生々しく描いた作品。

終始抑制の効いた演技がすばらしい。既婚者でなければあまりピンとこないかもしれない。館内は年配の方が多かった(一人で)。『花束みたいな恋をした』同様、カップル(夫婦)で観るとかなり気まずい。というのも、男女関係のもっとも脆弱な部分を突いた、あまりにリアルな映画だから。