こなつ

ほつれるのこなつのレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
3.8
演劇界注目の気鋭演出家加藤拓也が監督・脚本を務める本作は、「わたし達はおとな」(2022)に続き、監督にとって2作目の長編映画。ビジュアル的にも今風の29歳の監督は、演劇から映像まで活躍する才能の持ち主だが、異端児とも言われている。

高校在学中から、ラジオ・演劇・テレビ番組の演出を手掛け、高校卒業後イタリアで映像演出を学んで帰国。劇団「た組」を立ち上げた。

そんな監督の経歴に興味を持って鑑賞。
若い監督が男女の複雑な機微をどのように描くのか観てみたいと思った。
終始、心がザワザワして決して爽やかではなく、共感の出来ない部分の多いテーマだったが、リアルで自然体の俳優さん達の演技には引き込まれた。門脇麦さんはこういう掴みどころのない女性を演じるとピカイチだ。

綿子(門脇麦)が不倫相手の木村(染谷将太)とキャンプに行った帰り、木村が交通事故にあう。綿子は、夫の文則(田村健太郎)とは冷めきっていて家庭内別居のような生活をしていた。木村が心の拠り所になっていたが、そんな木村が帰らぬ人となったことで彼女の日常が徐々に狂いだし、綿子は夫や周囲の人々、自分自身と向き合っていく。

好感を持てる人が殆ど出てこない。綿子は、常に受け身で当事者意識が欠如した女性。夫の文則は、自分の事は棚に上げて、嫌味ったらしく綿子に接する。前妻との子供の面倒を自分の母親に頼み、家の鍵まで渡して不快感極まりない男性。木村(染谷将太)は、妻にはひとりでキャンプに行っていると嘘を付きながら、綿子との逢瀬の時間を楽しんでいる。唯一、普通の人は、綿子の友人の英梨(黒木華)だが、綿子に振り回されている彼女もまた主体性がない。とことん「人間の狡猾さ」を描き出す監督の演出の手腕が光る。

目の前で大切な人が交通事故にあったら、普通は救急車を呼ぶだろうし、バレるのが怖くて逃げるなんて有り得ない。木村のお父さん(古舘寛治)も変な人。息子の秘密は、墓場まで持っていかなくちゃ、、、

そんなこんなで心のザワザワ感が最後まで消えなかったが、目の前にある自分の人生から目を逸らし続けていたり、人を傷つけることに無頓着になっていると、その代償は確実に自分に跳ね返ってくる。誰かのせいにしてはいけない。自分の人生なんだから、、、そういうことなのかな。

音楽の殆どない作品。エンディングまで活字だけが静かに流れる展開。観る人それぞれに解釈を委ねているような終わり方だった。
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