ゆき

ほつれるのゆきのレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
4.1
沈黙がこんなにも贅沢に思えるものか。

精巧に練られた言葉と空白。画面に散りばめられた要素から膨らむ想像。
加藤拓也という人が創る世界観に魅せられ続けて早6年。今回の映像作品もしっかり食らった。

演劇「綿子はもつれる」と今作「ほつれる」。
舞台と映像、それぞれの遊び方で巧みに、悔しいほどに軽快に、人間関係の歪みを見せつけられる時間。
変に人物像を掘りすぎずに、色彩や言葉の余白で悟らせるような演出。映像作品ならではの厚みの出し方も良かった。
目の前の事柄に蓋をして、切れそうで切らない主人公と、関わる人たち。
ギアを上げて感情を表現したほうが楽なんじゃないかと錯覚するほど、淡々と彼女の「日常」を紡ぐのだけど、でも確実に変化していく。
加藤氏の戯曲本は読み物としても面白い。嗚咽するような展開も多いが、癖になる。
こんなにも魅了されている私は、日常で気づかぬうちにもつれているんじゃないか、と心配になる。ほつれは補整できるうちに。
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冷めきった夫婦関係。綿子は夫以外の男性に安堵感を抱いている。しかし彼は目の前で亡くなった。受け入れられない現実と、逃れられない日常の狭間で、綿子は思い出を辿り始める。
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