脳みそ映画記録

ほつれるの脳みそ映画記録のレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
4.8
 今秋間違いなくベスト映画だったし、今年でも上位に入るほど良かった。

 まず、プロットは言わずもがなですがめちゃくちゃ、演出も素晴らしいし、それに答える演者の演技がまた素晴らしすぎる!!!


 不倫というシークレットな部分を扱う話で、あまり露出した台詞や表現はないのですが、それでも内に込めた心情の部分を見落としてしまうくらいの何気ないカットや間、目線などで本当に繊細に表現していて、めちゃくちゃすごいんですよ。


 例えば、木村の死をスーパーで知る場面とか、たぶん他人からは、または電話主からすら気がつかない平然を装っていますが、一瞬の1テンポ間が空くことで動揺を表していたり、木村父が「犬で救急車を呼ぶわけには行かないしね」的な話をしているときに綿子のカットをスッと挟むとか、木村の妻との対談にコーヒーを持っていくシーンとか妻の表情はみせず、綿子だけを映しているとか、本当に例え話をだしたらきりがないけれど、文章で言うなら行間を読むみたいな表現に思わず脱帽しました。



 本作の監督の加藤拓也さんはまだ29歳とかでしょ。これからすごい期待ができる方ですよ!!!

 演技で言えばひとり残らず素晴らしかったのですが、中でも文則を演じた田村健太郎は嫌でしたね。嫌というのは褒め言葉ですが。
居るよね、こんな人って感じの理詰で責めてくる嫌さ具合が本当に嫌で最高に良かった。

 文則は攻めることで、綿子は逃避することで本質的には向き合うということをしなかった夫婦で、蓄積していったじめっとした雰囲気感があった、一方で木村と綿子の関係は不倫が故に向き合う必要がない関係でそれはそれで居心地は良かったのでしょう。



 最後に目線の話をしますが、終盤に明らかに不自然なカットがあるのに気がつきましたか?部屋にいる綿子がスッとカメラ目線になるんですね。それも一瞬でなく数秒間。きっと何か意味のある大事なカットだと思うのですが、私にはわかりませんでした。
 ただの傍観者として物語を観ていたつもりだったのに急に目が合うということがとてもゾッとして鳥肌が立ったのを覚えています。
 まるで「お前のことはずっと見えていたからな」と言われたみたいで。