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ほつれるのumisodachiのレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
4.2


加藤拓也監督作品。劇場で見逃したので配信で鑑賞。

専業主婦の綿子は不倫相手とグランピングに行くが、その帰りに不倫相手は事故に遭い帰らぬ人に。そのことに戸惑いつつ、醒め切った関係をなんとか修復しようとする夫との日々を過ごすのだが……。

向き合うことから逃げていて、極めて身勝手。そんな登場人物たちが静かに繰り広げる地獄が描かれていた。

目の前で不倫相手が事故に遭っても、不倫発覚を恐れて逃げてしまう綿子。どう考えても修復不可能だろうという状況なのに、自分が優しくしてあげれば綿子が「改心して」関係を修復してくれるだろうと信じている自己中心的かつ高圧的な夫。事故現場から逃げて葬儀も無視したくらいなんだから、その後も何食わぬ顔してスルーして生きるのかと思いきや、不倫相手との思い出に捉われて非合理な行動を取ってしまう綿子。その歪は当然ながら波紋を広げ、綿子は目を逸らしていた自分の感情に向き合わざるを得なくなる。

可能な限りあらゆる説明を避けるだけではなく、不倫の描写における性愛要素すら完全に排除して挑む人間の狡さと弱さ。不倫の是非以前に、大なり小なり醜悪な要素を晒していく登場人物たち。淡々としているのに、非常にスリリングで心にさざ波を立て続ける作品だった。

多くの感想にあるように、夫はネチネチと妻を責めてイヤーな印象を与える。ただ、綿子もさすがに怒られても仕方ない行動を繰り返すし(無断で温泉泊ってくるとかさ……)、どう向かっていっても何の反応も示さないからなあーという感じもある。そもそも綿子は、夫のことを「完全に無理」と思っているからなんだけどさ。綿子がちょっと驚くほど金遣いが荒いのも、夫への復讐心が多少は関係しているんだろうし。

そして、綿子が不倫相手の妻に向けた言動はかなり酷かったし、車の運転ができるにもかかわらず子持ちの友人をパシっていたのにもちょっと呆れた。だから、私の印象は「夫婦ともにキツいよなあ」というもので、最後の最後に「ああ、やっぱりね」という事実が明らかになるという構成だった。

綿子が自分が傷ついたことを認め、ようやく心の内を吐露できたことは喜ばしい。自分自身に向き合えないことが、人間にとっては一番不幸なのかもしれない。


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